実践編  3

次にあがってしまって弓が震えることについて、いかに対処すれば良いかを考えてみます。
 緊張で身体全体が硬くなり、思考力が低下したり手や膝が痙攣を起こし、震えに襲われることはしばしばあります。こうなってしまえばもうどうしようもなくなります。震えを止めようとすると、ますます震えが止まらななくなったりもします。地獄のような時間ですね!
私としては、そんな事態に陥ったとしても、あまり気にしない、放っておくのが一番だとは思います-そもそも気にしない性格の人ならそんなにあがらないでしょうが-、差し迫った問題、そうも言ってられません。そのような事態を最小限に抑える方法はあります。
人間の手は身体の根幹から離れると安定感を失い、コントロールを失いがちになるものです。震えが最も音に影響を与える右手、つまりボウイングについて考えてみると、あまりエンドピンを長くしすぎないで右肘を肋骨から離れ過ぎないようにします。脇を開け過ぎないで、と言うこともできます。常に身体の安定に心がけましょう。
あがると呼吸が浅くなり、結果として肩や肘が上がってしまい、震えを増幅させてしまっていることは結構多いものです。上がり過ぎた肩をまず下げなければなりません。呼吸をなるべく深く、腹式呼吸を普段から心掛けるようにします。息を深く、といってもあがっているときに息など、なかなか深く取れるものではありません。本番直前はジュースや甘いコーヒーをゆっくり時間をかけて飲みましょう。必ず横隔膜が下がり呼吸が深くなるはずです。甘いコーヒーは神経を集中させたい時には最高です。でも一気飲みはあまり効果がありません。また飲み過ぎには注意してください。特にコーヒーには利尿作用があるので、くれぐれも気をつけましょう。あがっているときは体温も下がり手足の指も血行が悪くなり冷たくなっているものなので、身体を温める意味からも甘いホットコーヒーはお勧めです。関西ではよく飲まれる生姜の入った飴湯もいいですが、これは夏の飲み物で、冬場は入手困難です。

また、あがってしまうと腕が伸びなくなり弓の先まで上手く使いこなせない、と感じている方もあるかと思います。そんな時は右手の親指と中指とが対面するように弓を持ちます。あがっていなくても弓の先まで上手く使いこなせない、という方にはお勧めします。
試しに薬指と対面させたり人差し指と中指との中間に親指置き弓を持つと二の腕の内側に緊張が走り、弓は先まで安定して弓を使えないはずです。中指と親指との輪は一番腕や手首を安定させます。
中指と親指を中心に弓を持つと、きっと弓先まで力が抜けず安定した音が持続できるはずです。特に上げ弓(アップ)で弓先から弾き始める時には効果があります。いろいろな位置で試してみてください。右指の置き方ひとつをとっても弓の安定感に影響を与えます。

立って演奏する楽器は、背筋を伸ばし、尾てい骨を上に引き上げるように構えます。あがっている人は恐怖感で背中が曲がり前屈みになるものです。それは身体を守る本能からくる自然な反応です。

それぞれ各自に合った構え方を研究してみてください。