上手な歌手の歌を聴いていると、癒されますね。実に心地良い。
音楽においてすべてのはじまりは歌うこと、つまり息です。

歌(息)がない限り楽器演奏は一切成り立ちません。しかし残念ながら歌うことと楽器演奏することとはまったく別物だと思っている方がほとんどではないでしょうか。楽器という道具を使うため、楽器で歌を歌うということをつい忘れてしまうのです。

人は歌う時、当然声帯をつかいます
。つまり声帯で発生した微弱な振動を身体に響かせて歌うのです。歯や舌は発音を司ります。声帯で発生した微弱な振動は弦楽器で言えば弦の振動にあたります。その微弱な弦の振動を楽器のブリッジを経てボディーで増幅させます。ボウイングは歯や舌の役割、つまり発音の役割を担います。楽器は歌の代用品、歌うことと楽器を弾くことはまったく同じなのです。ですから、歌を聴く、あるいは実際に歌ってみることは楽器奏者にとってもとても勉強になるのです。

どうしても上手く弾けない生徒には歌わせるのが一番。教師も弾いて見せるよりも歌ってみせる方が遥かに理解が早くなります。
それでもなかにはどう歌ってよいのかわからない、あるいは歌うことの意味がわからないという生徒もいるでしょう。そんな生徒には息を止めて簡単なメロディーが頭の中で歌えるかどうか実験させます。
おそらく一小節もまともに歌えないはずです。メロディーを想像することすらできない。また打楽器の場合でも息を止めて叩けば一発も良い音は出ないはず。リズムが体によみがえってこないのです。言い換えれば人は拙いながらも、いつも歌いながら楽器を弾いていると言えるのではないでしょうか。それだけいかに息が音楽を司っているか、音楽は息とともに存在するということがわかるはずです。楽器演奏も歌うことも一緒だということが理解できるでしょう。
音楽だけでなく生きること(生命活動)すべてが息だということですね。

楽器が上手くなりたければ、今やっていることをしっかり歌うこと、適切な息を取り、正しい発音で自然に歌う習慣を持つことだと思います。その意味で上手な歌手の演奏は楽器を弾く人にとって最高のお手本になるのです。M・モイーズのトーンディベロップメントというフルートのエチュードにはオペラのメロディーばかり出てきます。それだけ歌うことは大切だということです。

先日、久しぶりにソプラノ歌手藤野カヨさんのリサイタルを聴きに行ってきました。
とても素晴らしかったです!
歌うことの大切さや適切な息をとり正しい発音で歌われた歌が、これほど聴く者をリラックスさせ心を打つものかとあらためて実感させられたコンサートでした。我々楽器奏者にとっても歌うことの大切さを痛感させられました。