チェロを勉強するためには「どんなチェロのCDを聴けばよいか、又は子供にどんなチェロのCDを聴かせばよいでしょうか?おすすめのものがあれば具体的に教えてください。」
初めての生徒や生徒の父兄からはこんなことをよく聞かれます。
私もチェロのCDは参考程度に聴くことはありますが、これは、というものはなかなか見当たらないものです。それよりも、先生から習ったことを忠実に守り、先生の音を真似ることを努力するなら、何もCDなんかで勉強する必要などないはずですがねえ!
でもどうしてもと言うなら、歌のCD、特にオペラのCDを聴きなさい、と答えることにしています。

そして、小さい子どもを持つ母親には、迷わず「お母さん、あなたが実際に歌を歌って聴かせるのが一番ですよ。音楽することの意味が一番よく伝わります。歌うことは音楽の基本ですから。」と答えるでしょう。

声が悪くても音程が悪くてもいいのです。どんな曲でも結構。童謡でも今流行りの歌でも良いのです。相手のことを思い、歌って聴かせるという行為こそが大切。その手間が大事。歌って聴かせることによって子供は相手と共感する。一体感を得る。時間を共有することの大切さを学ぶのです。また複数の人とコミュニケーションをとること、相手の気持ちを察することを学ぶのです。これが音楽することの基本でもあるだけでなく人格形成の基礎ともなるのです。それはコンサートの基本でもあるのではないでしょうか。
母の声を聴くことによって、子どもは母の愛と真心を一身に受け止めて成長します。必ず愛情深い人に育つでしょう。音楽の好きな人に成長するはずです。

専門的にどんな音で、どこをどう弾けば良いのかなど、ずっとずーっと後のことでいいのです。

僭越ながら私の母のことをお話します。
私の母は、現在91歳。認知症及び下肢の不自由はあるものの、なんとか頑張って生きております。
母は昔から歌を歌うことが好きでした。飼い猫や犬にでも歌を歌って聴かせるほどです。私が幼い頃は、家事をしながらとか何かにつけ歌っていた記憶があります。歌といってもそんな高尚な歌ではなく、流行歌であったり軍歌であったり、、
そんな母ですから私も母の歌い聴かせで育ったようなものです。私も気に入った曲は何度でもアンコールしていたようです。それはさすがの母も困ったと後年申しておりました。
以上のように私自身程度は低いものの、生の音楽のなかで育ったようなものですから自然とクラシック音楽にも興味を持つようになりました。音楽が空気のような存在となったのです。

音楽は心。思いやりの心です。それを理解するには歌うこと(実際、声を出して歌うだけでなく心の中で歌うことも大切です)。それが最も近道だと思います。技術はその次の次。