◎ 一般的に生徒のなかには何を弾いても意味なく速く弾いてしまう人と遅くしか弾けないという人がいます。
生徒各自の個性だとか性格の違いと言ってしまえばそれまでですが、今弾いている曲が求めている速さやその生徒にとって現在最適且つ必要な速さを割り出すことを考えれば改善しなければならない点は色々あります。
まず速いテンポでしか弾けないという生徒を見てみますと、この場合生徒が抱えている問題はかなり多く、正しく導くためには慎重にレッスンを進めなければなりません。
このような生徒はどうしても気分が先走りやすく十分な間が持てていないまま弾いているということがほとんどです。

また気分だけで弾いてしまっている場合も多く、それらが走りやすくさせている原因となっているのです。気分だけで弾いてしまう習慣は絶対に見直す必要があります。
大作曲家の作品には気分だけで弾けるような曲など全く存在しないからです。
有名な演奏家のなかにも気分だけで弾いている人などたくさんいます。
また気分で弾くことを強要する教師が多いのも残念なことです。

このような弾き方をする生徒を技術面だけで見ていますと、今弾こうとしている弦にたいしてまだ十分な準備ができていないうちに弾き始めていることが多く見られます。弓もそうですし左手の運指の場合もそうですし、また技術的な欠点を速さで無意識に誤魔化してしまっていることも多々あります。

こんな場合は確実に左指を指板に置き(弦に指を置く感覚ではなく、指板に指を置く感覚です)、ボウイングも左手と完全に同調させる、この訓練を徹底すればテンポは落ち着き、それだけでも冷静さを取り戻し音も上滑りすることなどはなくなるでしょう。
次に最も難しい部分を取り出して確実に弾ける速さまでテンポを落とし、指使いを考え、ボウイングの難しさを克服した上で全体的なテンポを模索していきます。
それでも突っ走るという生徒には例えば一本の旋律にもかかわらず旋律と伴奏とを書き分けて作曲されているような曲を与えると良いでしょう。
このような教材など探せばいくらでもありますしバロック時代の作品には無数にあります。このような教材を発掘し与えることができるのは教師の力量であり腕の見せ所です。
とにかく教師はあらゆる手をつくして、どうしてそのテンポが必要なのかを示さなければなりません。作曲された歴史的背景、演奏習慣、和声などです。

習う方も深く考える習慣が必要。
歌う楽器チェロだからという理由だけでメロディックなものばかり弾いていても、芸術的に弾ける感覚など絶対に育ちません。考えながら弾くのが音楽です。そのように物事を考えながら弾く習慣を身につければ意味なく突っ走ることなどなくなります。

次に、速く弾く人とは反対にゆっくりとしか弾けないという人は、自分では気になるのでしょうが、それほど深刻な問題にはなりません。ゆっくり弾くとは、それだけで慎重に考えながら弾いているからです。
しかしテンポの適性を考えると速く弾いた方が良い場合も有り得るので、どうしてスムーズに弾けないのか、速く弾けない部分の状況を見極めなければなりません。
そんな時は大抵、全ての音をしっかり均等に弾き過ぎているものです。しかしこの場合は、なにかのきっかけというか少しのアドバイスですぐに良くなることが多いと感じます。例えば、生徒の楽器で弾いてみせる、これはかなり新鮮な感動であり、私自身も若い頃、レッスンで師匠が私のチェロで弾けない部分を弾かれるのを聴いた時、自分のチェロがこんな音楽を奏でるのかと感激したことなど何度でもあります。
これなど、最高のアドバイスとなるでしょう。