◎ 1 流れと音楽 

音楽は水の流れに例えることができます。
というより流れそのものではないでしょうか。
血液の流れが滞れば人間の身体には重大な悪影響を及ぼします。血栓や血瘤で血管が詰まれば忽ち血流が滞り死に至る危険も発生します。
いつも、その血管の状態に応じた血圧で流れ続けなければなりません。
激しい運動をしている時に血流が遅ければ身体全体に酸素を送り届けることが出来ず、即、倒れてしまうでしょう。心身共に落ち着いている時に速過ぎても、これは異常です。
心臓は自律神経によってその時に応じた血液の流れを無意識に作りだそうとします。

音楽もそれと同じように、それぞれのタイミングに応じた音質で流れ続けることが絶対に必要です。
それを間違えると音楽の崩壊にも繋がりかねません。
その場に合わない音の流れは音楽を殺してしまうのです。

風を想像してください。広い野原を渡る風はおおらかですが、その風が一旦ビルの谷間など狭い所を通る時、風は空気は空気を圧縮させ風圧を増し、時にはヒューッと音を発しながら通過します。
高気圧から低気圧へとバランスを保ちながら、風はいろいろ表情を変え流れ続けるのです。
これは川の流れも同じです。高い所から海へと川はおおらかに流れます。川幅が狭くなれば急流になり、その都度表情を変えます。それに逆らい流れを止めると水はすぐに腐りドブ川になります。

音楽の場合も開始から終結へと流れ、全体的な大きな流れに逆らうと、音は停滞し腐った音楽になってしまいます。
滔々と流れるべき部分で蚊の鳴くような音では音楽にはならないでしょう。
例えば音価の長い音符で曲が進んでいるとします(この時、テンポは考えないことにします)。やがて音楽は細かい音符の連続に差し掛かります。この時、長い音価の時と同じ音質(音の圧力)で弾いてしまったらどうなるでしょうか。
血管が梗塞を起こした部分を通る時を想像すればわかるように、
音楽も音が狭い所を通過するのですから、同じ強い音圧では細かい所を通過することはできないのです。無理に通過させようとすると音は割れ、潰れ、テンポからはみ出し、それこそ音楽が崩壊してしまうでしょう。
反対に、ゆったりとした部分で豊かに楽器が鳴っていないとテンポに対する音の密度が低くなるので、テンポは走ってしまいます。

以上、いろいろなことを申し上げましだが、物事は高いものから低いものへ、低いものは元に戻ろうとし、圧迫からは解放されようとする。言い換えれば力を相殺し補い合おうとする振り子のような法則で成り立っている。このような当然守られるべき理屈が守られていない現実は多々見受けられます。
音楽だけが特別だという理屈は成り立たず、演奏も自然の法則によって活かされるべきだと気づく時、音楽はもっと輝きを放ちはじめるのではないでしょうか。

続く