◎其ノ五
テンポを感じる

昔の人もテンポ感を身につけるのは苦労したと思います。メトロノームも無い時代、まず彼等が目をつけたのは自然界にある身近な規則的運動、そうです、自分の脈拍です。大体一分間に60回程規則的に打つパルス。この60という数に対して少し速いか遅いか、倍になるのか半分になるのかなど、とにかく1分間に60という句切がおおまかな基準となったのは間違いありません。単純なメロディーをメトロノーム無しで歌ってみると分かるのですが、大体60に落ち着きます。この数字からあまりにも掛け離れた数字にはなりにくいのです。どこかに違和感が生じます。そこで関係性が薄い数、例えば75とかを用いて弾いたり歌ったりすると、かなり強いストレスを感じることがわかると思います。

多くの作曲家は曲(楽譜)にいろいろなストレスの要素を盛り込むことで安定性を壊し、独特のテンポ感や調性感を生み出すことによって自分独自のキャラクターを築き上げていったのではないでしょうか。
これは調性の問題ともよく似ています。
調子で最も自然、単純で響きも明るい調子は何の調号も無いハ長調ですね。#や♭の調号が一つずつ増える毎に響きは複雑になっていきます。テンポも同じように、数値が増減する毎に緊張度は複雑に変化します。

因みに人の鼓動が一分間に60、一分は60秒、1時間は60分、という奇妙な一致は人間と自然との法則が結び付きを感じさせられ、我々は自然から生まれ生かされているということを実感させられます。

という訳で、人にとってテンポ60は密接な関係があり極自然なテンポであることが理解していただけると思います。
ですから一定のテンポ感を体得するためには、人にとって極自然な一分間に60という速さをまず身につけるのが最も楽で早道だと思います。

◎方法

まずメトロノームを60に合わせます。そしてそれに合わせて足でテンポを取ります。その時、足はできるだけつま先で。
次にメトロノームを聞きながら足のテンポと同時に簡単なメロディーを想像します。口ずさんでも良いでしよう。この時大切なことは、1ト2ト…のように“必ず”裏拍(アップビート)も同時にカウントします。
テンポ感やリズム感の悪い人は必ずといっていいほどアップビートがとれていません。

慣れてくれば楽器でも同じことを行います。次第にこの動作を複雑な曲に変えていきましょう。
勿論、曲に応じてテンポは変化させて結構です。
メトロノームを聞いてそれに合わせているうちはテンポ感は決して身につきません 。メトロノームのカウントを身体に取り込んでいくのです。その時、身体のどこかが動いていることが大切です。

続く