2 フォーレのレクイエム Op.48

フォーレの作品にはどれも強い中毒性がありますが、この作品はその点では最たるものでしょう。
この、音楽における中毒性とは、どんなものでしょうか。
一旦その曲を聴いてしまうと、曲のメロディーが一生頭から離れなくなり、何をしている時も、例えば夢の中で歌っていたり、ふと気がつくと無意識に歌っているということがよくあるのです。頭はその曲のことばかり。絶対逃れられなくなる。これは一生続きます。これは中毒意外の何物でもありません。

では、なぜそのような現象が起こるのか?
フォーレの他の作品にも共通しているのですが、多分曲が持つ響き、例えば使われる和声はとても複雑です。しかし、それにもかかわらず、そこから聞こえてくる音楽は単純明快で素朴。リズムも穏やかであり、叩きつけるような刺激はありません。心の隙間にスッと染み込んでくる。どこか懐かしく、初めてなのに昔から知っている人に会ったように。
記憶中枢をダイレクトに刺激するのでしょう。響きが素直で素朴ゆえに記憶に残りやすいのだと思います。
これは、天才だけに許された技であり、やろうとしてもなかなか出来ることではありません。
4曲目のピエ ィエズなど、一度その素朴で美しいメロディーを聞いたら、それこそメロディーが頭にこびりついて一生逃れることができません。
そんな経験を持つ方はたくさんおられるのではないでしょうか

私がこの曲に初めて接したのは、大学の4年生のことでした。
その頃、すでに演奏活動を始めていた私は、ある時、徳島文理大学音楽科の定期演奏会にエキストラとして出演を依頼されたのです。とにかくその時が最初でした。
あまりの美しさに圧倒されてしまいました。固まってしまうとでも言いましょうか。
勿論、演奏もとても良かったのですが、フォーレの音楽に私自身完全に引きずりこまれてしまったのです。
それから演奏会が終った後しばらくは、ピアノで弾いたりレコードを聞いたり、とにかく考えるのはフォーレのことばかり。それはある意味で今でも尾を引いていて現在に至っています。今でもフォーレは私にとっては特別な存在なのです。

学生の頃、聞いたレコードはスイスの指揮者ミシェル・コルボが指揮した物でした(名盤として有名です)。それから約十年後、実際にローザンヌのカテドラルで彼の演奏で同じ曲の演奏を聞くチャンスを得たのです。
その時の感激をどのように伝えたらよいのでしょう。

続く