笛吹きからチェリストへ

竹内良治先生の元でチェロの練習を再開したのですが、中々上達しません。結局大学にはフルートで入学しました。大学一年になった頃にはチェロも少しはマシになり大学二年生に上がる時に改めてチェロへの専攻変更の試験を受けることにしたのです。フルートではその時、かなり高度な曲を吹いていましたが、それを全部捨ててチェロの世界へ飛び込むことに対して何の抵抗も無かったのか、とおっしゃる方もおられるのではと思いますが、前の章でも申し上げたように、私はその時そんなことは一切考えもしませんでした。オーケストラに入りたい、その一心でした。
なにも私はその時フルートを捨ててしまったたというわけではありません。今でも吹けば以前と同じように演奏できます。

私のところに来るチェロの生徒さんで昔少しチェロをやっていたけど、もう忘れてしまったので、また弾けるかどうかが心配だとおっしゃる方が時々おられますが、私からみれば、一度身についたものは絶対捨てる事ができません。良くも悪くも身体のどこかで必ず覚えているもの。悪い癖も同じです。なかなか無くなりません。
ではいかにして良い演奏習慣を身につけたらいいのか?
音楽に対する良い考え方を身に付ければいいのか?それは良い習慣をどんどん“上書き”していくのです。良い習慣の比重を増やしていきます。忘れることは不可能。先にも言ったように、どんな動作も身体が覚えています。私はフルートを今でも普通に吹くことができます。弦楽器の良さも“上書き”されているので、もしかして昔より今の方が上手く吹けるかも知れません。またチェロを弾く時も管楽器の呼吸感をもって弾けるので、他のチェロ奏者に比べるとその点、とても有利なのです。
その意味からも昔フルートをしっかり練習出来たことには感謝していますし、誇りにも思っております。