◎ 最近テレビでギリヤーク尼ヶ崎さんの姿をとんと見かけなくなったなあと思っていましたところ、偶然にもつい先日NHKのドキュメンタリー番組で彼の特集をやっているのを発見しました。
あの放送を見て色々な意味で驚かれた方は多いと思います。
番組内容も製作者側の私情を差し挟み過ぎず、淡々と流れており、この出来には好感が持てました。
今まで謎だった彼の私生活や考えを初めて知ることができて私自身はとても興味深く見ることができました。

ギリヤーク尼ヶ崎。彼は現在86歳。舞踊家であり大道芸人です。あの特異な衣装(赤フンドシ)と白塗りの異様な化粧で踊り回る、いや踊り狂うと言った方がよいかも知れませんが、とにかく彼の津軽三味線に合わせて踊る異様な姿を見た者は例外なく目が釘付けになります。私は彼の実際の公演を見たことはありませんが、テレビだけでもその場の異様な雰囲気は十分に伝わります。私も若い頃、テレビで見て度肝をぬかれた経験がありました。

その番組で初めて知りましたが、現在彼は色々な病気と闘っているそうです。しかしその苦悩のなか、細々ではあるものの衰弱した身体に鞭を打ち今だに現役で踊っているとのこと。凄いですね。
特にパーキンソン病の影響は酷く、手は震え腰は曲がり歩くこともままならず、介護無しには生活できない状態なのです。その介護は同居する彼の弟が一手に担っています。なんと優しい弟さんなのでしょう!
そんな不自由な身体にもかかわらず、自分の芸に対する高い理想は以前と全く変わらず、芸の事を熱く語り芸人としてのプライドにいささかの揺るぎもない。
そんな危機的状態でも彼は現在、大道芸の仲間たちの支援で街頭での公演に立ち続けているのです。
以前に見た印象が強すぎて最初番組で彼の姿を初め見た時は余りの変貌ぶりに、これが本当にギリヤーク尼ヶ崎かと目を疑いましたが、その身体で公演…?聞いてさらに驚きました。実際見た感じでは気力だけで立ち上がっているようで痛々しい。それにもかかわらず近所の公園での練習は欠かしません。
彼をそこまで駆り立てるのは一体何なのでしょう?

やがて実際に街頭に出て公演する姿も放送されていましたが、その姿は腰にコルセットを巻き痛々しいばかり。しかし目には鋭い眼光、気迫がみなぎる。身体が衰弱し確かに以前のような表面的な大迫力はありませんが、芸への執念というか執着心が痛いほど見る者に伝わり、以前とはまた別の凄さと迫力で見る者を圧倒します。
これぞプロの姿。

そんな衰えた姿になってまで人前に立つ意味はあるのか?と思った方もいるとは思いますが、彼には踊ることしか自分が存在する意味がないのだと思っているのでしょう。街頭で踊りながら死ぬのが夢だと。
彼のような人を本物のプロと呼ぶのだと思います。

彼のような自分に厳しい芸人って少なくなりましたね。ルックスだけで周りからちやほやされ小器用さだけで本物の実力が伴わない。そんな芸人ばかりが目につきます。

彼の生き方を自分に置き換えてみると、あのような厳しい状態に陥ったとして、はたして彼のように自分のポリシーを貫き通すことができるのだろうかと今さらながら考えさせられてしまいました。大抵は身体が衰えると心まで衰えるものであって、あそこまで気力を持続させることは並大抵ではなく、少なくとも私にはその自信はありません。

また別の視点で考えると、彼のように自分で創作して公演するのなら、いくら身体が衰えようとも、その衰えた姿がひとつの味となってまた別の良さが生まれるのでしょうが、楽器の演奏となるとあくまでも他人が創作したものを再現することが使命となるため(自作自演は問題外です)、あまりにも身体が衰え過ぎてしまえば、聴く者にその作品の意味を伝えることはできません。これが創造者と再現する者との大きな差だと思います。
今回、この番組を見て、いろんな意味で最近のNHKには珍しく良い番組だと感じました。