今日はチェロとピアノとでデュエットする時の音のバランスについて考えてみたいと思います。

皆様ご存知のように、それぞれの楽器はその誕生から現代に至るまで多くの改良がなされてきました。
特にピアノなど生まれた当時の楽器など楽器自体ほんとに小さくて、か弱く繊細な音がしていました。それに比べて現代のグランドピアノは巨大で鉄骨が張り巡らせていて、さながら、なにか大きな機械を思わせます。その音を近くで聴けばその音圧に圧倒されてしまいます。
それに比べるとチェロなどの弦楽器は改良されたとは言え発生当時の姿とは殆ど変わりがありません。実際、今でも三百年から四百年前に製作された楽器が今でも現役で使われていることを見てもわかります。
ピアノなら骨組みに鉄骨を使うなどして音量は格段に増大しましたが、弦楽器の場合、基本的に材料や構造は昔のままです。例え弦の材質を変えたり骨組みを太くしたところで音量には限界があります。

そのような事情があるものですから現代のピアノと弦楽器とで合奏しますと、どうしてもチェロなど低音域を得意とする楽器は負けてしまいます。バイオリンなど甲高い音の楽器の場合でも音は通りますが、どちらかと言えばヒステリックになる傾向があります。
大抵の演奏会で弦楽器とピアノとでデュエットまたはピアノトリオなどのアンサンブルをする場合、ピアノの蓋は半開きか全部閉じるかのどちらかではないでしょうか。
しかし、確かにその方法ではピアノの音量は落とせるかもしれませんが音が籠ることによって肝心な音質やニュアンスを損ねてしまいかねません。
弦楽器の音量を上げることも考えられますが、この場合も問題があります。先にも申しあげたように現在の弦楽器には音量的には限界があります。上げることはできたとしても音質や繊細なニュアンスをぶち壊してしまうのです。元来、弦楽器は構造上、小さく繊細な音を出すのが得意な楽器であり、常に大音響で弾き続けるのには全く適さない楽器なのです。
そこでお互いの楽器の良さを引きだしつつ良いバランスを保ち続けるのは至難のわざと言えるでしょう。
例えば、メンデルスゾーンのチェロソナタ第二番を見てみますと、やたらとピアノの音符が多いことに気がつきます。
この曲を現代のピアノで普通に弾けば、どんなに頑張って弾いてもチェロの音など聴こえてこないでしょう。全くピアノには太刀打ちできません。聴こえるように頑張って弾いたとしても潰れた汚ない音ばかりになってしまうでしょう。
この曲が書かれた当時のピアノとチェロではしっかりバランスがとれていたのです。チェロもそんなに力まずに弾けたはずです。
では現代の楽器で実際にどのようにお互いを生かしつつバランスをとれば良いのでしょうか。しかもピアノの蓋は全開で。

結論から言うと、不可能です。

残念ながらピアノの蓋は閉じて(ピアノの個性を殺して)、しかもチェロは常に無理をしながら大音響で弾き続けるしかありません。

私はその打開策としてピアノはアップライトの楽器を使うことを推奨しているのです。
これは意外と上手くバランスがとれます。程度の高い楽器ならグランドピアノよりも遥かに良い結果が得られます。ドイツのメーカーなどの新作でも素晴らしい音色を持ったアップライトピアノがあります。
それらの楽器を使えばピアノトリオなどでも絶対上手くバランスはとれるはず。アップライトは家庭用、コンサートはコンサートグランドで、という単純な発想はそろそろ捨てた方が良いでしょう。