◎ 私のところへ来る生徒の中には、楽器が全然うまく使いこなせなくて悩んでいる人が時々います。
いかにも弾き難そうというか、私が見る限りでは、楽器に弾かれている、つまり楽器に振り回されているように見えるのです。
いろんなボウイングや難しい指遣いは覚えるのに肝心な楽器の鳴らせ方が身につかない。例えばウルフトーンが強く出たりするともうお手上げ。

実際、同じ楽器でもそれぞれ個性が異なるので、教える方も鳴らせ方を教えるのは難しいものです。あくまでも自分で見つけなければならない要素はあります。
楽器の鳴らせ方がピントきていない生徒の演奏をみていますと、楽器の個性が自分のテクニックを上回っている場合が多いですね。つまり楽器に弾かれている。
例えば高価な楽器(プロが弾いて魅力を感じる、それは結果として高額になる傾向にある)ではたいてい個性も強く、初心者のテクニックなど寄せつけないことが多いものです。そんな楽器を弾きこなすことはプロにとっては至上の楽しみですが、そんな楽器、初心者には基本的に向きません。楽器の良さもわからないでしょう。しかし、一般的に初心者が使うような楽器ではそんな問題は起こりません。弾き方で大抵なんとかなるものです。
楽器が最良の調整がなされていることは基本中の基本ではありますが。

思うように鳴ってくれないことが結果として自分の楽器が悪いのではないかと、楽器に責任を転嫁することにもなりかねません。こうなれば弾く楽器がありません。楽器にとっては迷惑な話です。ウルフトーンなど弓のスピードや圧力の加減である程度なんとかなるものです。

チェロを始めて一月や二月ならある程度仕方ない面もありますが、一年も過ぎれば、やはりもう少し自分の楽器を信頼し自信を持って弾いていただきたいものです。しかしそうは言うものの、楽器を弾きこなす、これは本来とても難しいことなのです。プロでもその楽器の良さを十分発揮できていない、楽器に振り回されている人などいくらでもいますから。

ではなぜ自分の楽器が信頼できないのか?それは以前にもお話ししたことがありますが、まず自分の楽器の本当の音は自分には聴こえないからです。

そして自分の楽器の音を判断できるだけの実力が伴っていないということ。
これはわかっていてもなかなか解決は難しいものです。

そんな時、私の修行時代にも経験がありますが、まずレッスンの時には、生徒が弾いている曲を生徒の楽器を使って弾いてやる、これが一番の解決策です。これ以外に方法はありません。
先生が生徒の楽器を弾くことによって生徒は自分のあの酷い楽器が本当はこんな素晴らしい音が出るのだったのかと目が覚め、自分の楽器に惚れ直すのです。そしてまた練習に打ち込むことができるのです。
自分の楽器の音の個性がわかれば、弾き込むことの重要性がわかり、練習の目標も定まり、その実力も育っていきます。という意味からも楽器の演奏は経験のある指導者に就いて習うべきものなのです。
また教師にとっても楽器の不調をいち早く察知することもできますからまさに一石二鳥。

それでもやがては納得できなくなってくるでしょう。その時は自分の実力が楽器の性能を上回ってきたということかも知れません。
もうひとランク上の楽器に買い替える時期が来たということでしょう。

終わり