◎ 厳しい夏もようやく過ぎ去り、やっと秋かと思いきや、近頃の寒さはすでに冬の到来を感じさせます。何と言っても、もう立冬を過ぎたのですからね。今年は秋が無かったような気がします。
気候の変動の激しいこの季節、皆さんのチェロの調子はいかがですか?
やはり空気が澄んできたせいか、皆さんのチェロも、音の透明感が増してきたのではないでしょうか?
私のチェロも実りの秋を喜んでいるかのように機嫌良く歌っています。今年はある日突然音が澄み切りだしたような感じです。

楽器の鳴り方は不思議なもので、単に湿度の差だけでは、解明できない不思議なことばかりです。気温や空気の透明度など色々な条件が微妙に関係しているのでしょうね。楽器の調子など毎日のように変化します。同じ調子など一日たりとてありません。弦楽器はまさに生き物。毎日自分の楽器の調子をチェックする習慣くらいは持ちたいものですね。

特にアマチュアに多く見られるのですが、楽器は弾きっぱなしと決めこんでいるような方が意外と多いものです。駒は曲がり放題、弦は何年も張りっぱなし。松脂が楽器にこびりついていても平気。このような人はチェロを習うより、まず楽器の扱い方を習うべきでしょう。
しかし楽器をどんなに丁寧に扱っていても避けられないトラブルは発生します。
先程も申し上げたように楽器は日々変化します。特に目立つ変化は、梅雨の頃から秋にかけては指板が下がることです。つまりこの時期は弦と指板との間隔が広くなります。
反対に冬季は指板が上がる、ということになります。
これには色々な原因が考えられますが、まず考えられるのは、気温と湿度による表板と裏板との材質の違いによる伸縮率の差によって起こるのではないかということです。
次に考えられるのは楽器の造りの差もあるのではないかと思われます。どちらかと言えば板を薄く削った楽器の方がセンシブルな分、少しの気温や湿度の差でも変動は大きいように感じるのです。
とにかく同じ楽器は二つとないので、楽器による個体差はかなり大きいものです。
他には、造りのいい加減な楽器、これはいい加減さゆえに弦の強い張力によって指板が下がるのですが、こんな楽器は一旦下がってしまえば二度と元には戻りません。
丁寧に製作された楽器なら、冬季になれば元通り戻るのが普通です。
さて、指板が下がればどんなことが起こるでしょうか。まず弦と指板との間隔が広くなり、弦を押さえる指の負担が増すということが考えられます。特に高いポジションでの高い弦高は弾き難さを極めます。自分は高いポジションなど弾けないから、そんなの関係ないと言う方もいますが、低いポジションでも関係は大有りです。低いポジションでも確実に指への負担は増加するものです。おまけに押さえる度に弦は深く沈み込むので、弓の毛は隣の関係ない弦に触れてしまい、雑音が出やすいという事態に陥ります。
では実際、弦と指板との間隔はどれくらいが良いのでしょうか。

続く