“アイデア”1 

音楽を演奏するとき、もうひとつ大切な要素があります。それは“アイデア”です。アイデアの引き出しを沢山持つのです。

後期ロマン派のヴァーグナー、リヒァルト・シュトラウス、マーラーなどの作品の楽譜をご覧になったことがある方はご存知だと思いますが、彼らの楽譜には速さや、どのような気分で弾くのかなど、が言葉で長々と書かれているのが普通です。極端な場合、演奏する弦楽器の人数、楽章と楽章の間の取り方は何分、全曲は何時間で、とまで指示された物まであります。
それではバロックや古典派の作品はどうでしょうか。特にバッハなど原典版の楽譜を見る限り、速度やディナーミク(音の強弱)などほとんど何も書かれてはいません。それではそんな情報量の少ない楽譜をどう弾けばいいのか、という問題が発生してきます。速度やディナーミクは、ある程度その時代の演奏習慣を研究すれば、何とか演奏として基本の形にはなるかも知れません。しかしその時点では、まだまだぎこちない演奏だと思います。また一方で後期ロマン派の音楽は弾き方が全て楽譜に書き込まれていると申し上げましたが、ただ書かれた通りに演奏すればいいのでしょうか。勿論それでは音楽にはなりません。後期ロマン派の曲における書き込みは、ヒント程度に捉えるべきだと私は思っています。それらは私の感覚では楽譜を徒に煩雑にし、演奏者のファンタジーを奪ってしまいかねない、かえって演奏するのは難しいと思います。