其ノ四
◎ピッチの問題

では、チェロをどのピッチに合わせるか、これは以前にも少しお話ししましたが、初心者の場合、自宅にピアノがあれば、そのピッチに合わせて練習する機会が多いと思われるので、そのピアノに合わせるのが良いと思います。多分440ヘルツから442ヘルツ位でしょう。私のレッスンでも家にピアノを持ち、そこから基音を取ることができる人は、そのピッチを使います。また、生徒がチューナーしか持たない場合は、さしあたり世界標準の440ヘルツで良いでしょう。しかし、ピアノを持つ生徒もそうでない生徒も、上達するに従って少し低めや高めのピッチを適宜用いてやると、音と音との隔たりとしての音程感覚を養うことができます。音程とは音その物の高さではなく、音と音との隔たりだということを改めて理解してもらうためです。絶対音感を養うためではありません。
一時代前にもてはやされた絶対音感の持ち主は、個々の音をそれぞれ独立した高さとして身につけているので、彼らの演奏には音同士の脈絡がなく、音の羅列に過ぎず、音楽にはなりま得ません。一般的に、演奏には不向きです。 この問題につきましてはまた機会を改めてお話しさせていただきます。

さて、いろいろなピッチで弾くことによって、楽器そのものの響きの変化を楽しむこともできます。
当然ですが、低くなれば楽器のテンションも下がり、落ち着いた音色になりますし、高くなれば、輝かしく華麗な響きになります。
ハイドンやモーツァルトをはじめとする、いわゆるヴィーン古典派の時代には430から435ヘルツが一般的だったそうですが、このピッチでこの時代のカルテットなど弦楽器の合奏曲を弾きますと、チェロ本来の柔らかい音色を楽しむことができます。バイオリンも独特のキンキンした音が軽減されて、より耳あたりがよくなります。
それ以前は国や町によっても異なるので一概には言えませんが、もっと低い415ヘルツや更に低いピッチが使われていました。
ただ現代では管楽器やピアノとの合奏は古楽器を使わない限り、かなり困難になるのが問題ですが。

ロマン派後期になっても、このピッチは使われたでしょうし、せいぜい438ヘルツ位でした。
現代の440ヘルツが標準になったのは意外と新しく、195 5年の国際会議によって統一されたそうです。ピッチに関してはそれまでは、国によっても異なるし、かなり流動的だったのではないでしょうか。
現代の私達も、弦楽器だけの合奏に限っては、もっと作品の時代にこだわらずいろいろなピッチで楽しむことができれば、作品からもっといろいろなものが発見することができ、楽しみも増えるのではないでしょうか。それが弦楽器だけの特権なのですから。

ちなみにブラームスの作品は、絶対低めのピッチが良いですね。フランスの曲では高めでも全然問題ありません。
曲に応じてピッチも変える。楽しみは無限です。
皆さんもいろいろと挑戦してみてください。

おしまい