弦による音色やキャラクターの変化を意識して書かれたもうひとつの曲は、やはり5番でしょう。
この曲はA線を1音下げてチューニングします。つまりA線がGの音になるのです。このようなチューニング方はイタリアではスコルダトゥーラといって、チェロでは他にドメニコ・ガブリエッリのリチェルカーレやソナタに出てきます。

A線の鳴る音は記譜より1音低くなるというわけです。
五線譜の一番上の線を実際押さえる指の位置を示すための線と理解して演奏します。

この5番をオリジナルのチューニングで弾いた時いつも経験するのですが、私は書かれた頃の“光”や“匂い”すなわち空気感まで感じるのです。
それはある日の冬の午後、その日最後の日の光が弱々しく部屋に射しております。午後3時頃でしょうか。ドイツの冬は早く日が落ちるのです。場面はバッハの仕事部屋、少しかび臭い匂いとローソクの匂いがします。バッハは物思いに耽りながらペンを走らせております。

以上、バッハの仕事部屋にタイムスリップした私が見たことです。

これはもうバッハの作曲におけるマジックとしか言いようがありません。ドゥビュッシーなどフランス印象主義の作曲家達にも影響を与えたに違いありません。

過去の大作曲家が抱いたように、自分も楽器の音色にはもっと自由な感覚を常に持ち続けることが出来たらいいな、と思っています。