前回のブログではボウイングはアップとダウンには性格があり単なる腕の往復運動ではない、と申し上げました。
 
しかし、それではダウンからアップへ、あるいはアップからダウンへとどう繋げていけばよいのか、さっぱりわからない、途方にくれてしまうとおっしゃる方もいると思います。
 
それ以前に、まずボウイングを考えるうえで大切なことは、
今から弾こうとしているのがダウンなのか、アップなのかということです。言い換えれば、緊張感を求めるのか安定感を求めるのか。
 
役者でも、演技を始める前にはすでにその役になりきっているわけです。セリフをしゃべり始めてから自分の役が悪役が良い人の役かを思いだしていては遅いのです。それと同じだと思います。
 
次に、アップからダウンに弓をどう繋げたらよいのか?
感情をどのように切り替えればよいのか?
 
そこで、私の生徒には添付した図形1のような線を思い描きながら弓を動かせる事を勧めています。もちろん私もそのようなイメージで演奏しています。
 
これは数字の8の字を横にして長くしたような形ですが、
あくまでも頭の中でのイメージだと思ってください。実際には弓や腕はこのような動きにはならないかもしれません。
 
大抵の方のイメージは図形2で示したような単純な往復運動ではないでしょうか?
 
図形1で私が何を言いたいのかと申しますと、例えば弓が安定のダウンで始まれば、ダウンの終わりの方では、すでに次のアップの緊張感を予感していなければならないということです。
それが図形2の場合、一旦全ての動きだけでなく感情までも停止してしまう。弓を返す度にそれぞれの弓の感情を作り直さなければなりません。
これは弓を一旦止めなければならないので、演奏は不可能となります。
それで、潤いのない単調な歌い方になってしまうのです。
 
そこで、弓のアップからダウン、ダウンからアップへの返しには必ず、ヘアピンのような緩やかな「返し」が必要です。
この返しの部分を利用して、役割を変えるのです。
例えば悪役から善人へと。ダウンの安定にはすでに不安が予感されます。アップの緊張では希望が感じられる。2月頃は冬の厳しさの中にも、植物が芽吹く微かな香りが感じられるものです。
 
感情の変化が急になればなるほど、ヘアピンのカーブは鋭くなります。天候の急激な変化の時もそうです。
 
人の感情でも安心はすぐに不安へと変わるものですし、不安や緊張は安心や安定を渇望するものです。その際、必ず予感というものがあります。
悲しみの後には必ず、希望が見え隠れするものです。泣いてばかり笑ってばかりの人生ってつまらないですよね!
 
ですから、チェロなどの弦楽器演奏はまさに人生の縮図、人間的な楽器です。
私など弦楽器の音に人間味を感じるのはその所以だと思うのです。
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