◎ 今日は前回に続き演奏面に於ける生徒がいだきやすい悩みについてその解決方を考えてみたいと思います。
前回は音の“かすれ”についてその原因と解決方法についてお話ししましたが、今回は生徒がある程度チェロに慣れ、第一ポジションからそれ以外のポジションへと移動する際に直面する問題です。

ポジション移動の際には必ず指を弦上で滑らせる動作を伴います。チェロの指板はバイオリンのそれに比べるとかなりの長さがありますが、世間一般的に第一ポジションに慣れれば次にポジションが比較的取り安いという単純な理由でだけで第四ポジションに移動する練習をするというのが普通です。しかしそれは結構な距離を左手は移動することになるのです。一概に簡単とは言えません。
余程器用にポジションを移動させないと必ずといって良いほどポルタメント、つまり指を移動させる際に発生するサイレンのようなずらせる音が入ってしまいます。これはポジションの移動距離が長ければ長いほど何も考えずに弾けば、ずらす音は確実に発生します。

意識的で洗練されたポルタメントは音楽に潤いと艶を与えますが、技術的問題によって無意識に入るポルタメントは音楽の品性を著しく低下させるので、この無意識にかかるポルタメントはなんとしても避ける努力が必要です。

次に、ポルタメントが入る原因について考えてみます。
まず第一から第四ポジション、またはそれ以上の距離を移動させる際に重要な左指の移動方法ですが、まず大抵の生徒が始めにぶちあたる難関は、移動時に指の力が抜けないということです。最初のレッスンでは弦はしっかり押さえてと教えられているものですから、どうしても指が引っかかりポジションが移動しきらないという事態に陥ります。
そしてポルタメントを避けようとすれば力が抜けないので勢いと力ずくで移動させてしまうことに。特に第四ポジションへの移動などネックの付け根や楽器の肩を叩くような結果になってしまいます。
こんな時には、押さえた移動させる指の力を抜き、反対にゆっくりと意識的にポルタメントをかけながら移動させる。そして移動先で再び押さえ直します。力は抜くことも大切なのです。
この方法で移動させれば指が弦上を移動する時の感覚が味わえるし勢いで移動させる癖はなくなるはずです。

私のレッスンでは第一ポジションに慣れると次に第二、第三ポジションという順でレッスンを進めています。移動距離を少しずつ広げる方がポジション移動も自然に身につきますし、実際の曲でも応用の可能性は広がります。第一と第四ポジションだけで弾ける曲などあまり存在しません。第四ポジションが出てくれば普通は第二、第三ポジションも伴うものだからです。

初歩の段階ではポルタメントの原因が左手だけにあると思い、どうしても左手のポジション移動だけの練習に偏りがちですが、それだけでは問題が解決しません。
初歩の方は意外と思われるかもしれませんが、実際は左右の手のバランスというか連携運動が欠かせないのです。

続く