弦楽器製作家 山本正男氏作のチェロ

今日は大阪天満橋に工房を構える楽器職人の山本正男さんをご紹介いたします。

私は過去に色々な方と出会ってきました。
その中の一人に宮崎市にお住まいの北野さんという方がおられます。
彼は特に印象に残っております。彼は宮崎市内で鍼灸院を営業されておりますが、とても音楽が好きな方です。彼の仕事場ではいつもクラシック音楽が流れております。
宮崎市内で催される主なコンサートには必ず聴きに行かれます。市内での私の演奏会にもいつも聞きに来ていただきました。
彼は幼少期に視覚をすべて失われ現在聴覚と触覚の世界だけで生きておられます。そのためでしょうか。彼は異常に鋭い聴覚の持ち主でもあるのです。彼の演奏に対する指摘は歯に衣着せぬ言い方で的確です。私などいつもびくびくしておりますが、どういう訳かいつも私の演奏をとても楽しみにして下さっていました。
ところがある演奏会の後、お会いすると「今日の演奏はいつもとは何かが違う!いつもの川内さんのチェロの音とはまったく違う。今日の演奏はあまり良くなかった!」とおっしゃるのです。
その時使用したのはイタリアの新作チェロでした。いつもとは違うイタリアの楽器で弾いたと告げると、彼はいつものチェロのほうが遥かに良い!イタリーのチェロなんか全然良くない。次回は是非前のチェロで弾いて下さい、とまで言ったのです。
そのいつもの楽器こそ、天満橋の山本正男さんが1985年に製作し私が留学にも持って行ったチェロだったのです。
山本さんのチェロの音には独特の艶っぽさや色っぽさ、又は少しの湿り気(?)があり日本人の情感に訴える何かがあります。ヨーロッパの風土と日本のそれとの違いとでも言いましょうか。ヨーロッパの楽器にはない何かが確実にあります。

山本さんのチェロは宮崎の北野さんの言う通りかなり個性的で印象深い音色を持っているのは確かなようで(山本さん自身かなり個性的ですが魅力的な方でもあります)、なんでもそうですが楽器にも作る人の人格が多いに反映され、一度聞けば北野さんのように絶対忘れられなくなるのだとつくづく感じます。
私が今現在主に仕事に使っているチェロは1953年製のイタリアのガエタノ ガッダと2004年山本正男さんが製作した楽器です(このチェロは元々違う方の所有でしたがひょんなことから現在私が所有しておりますが、このチェロも素晴らしい楽器です)。
では何故今イタリアのチェロを使っているのかというと、かねてから山本さん本人から自分のチェロはもう卒業してプロなら少なくてもモダンのイタリー製を持つべきだと言われ続けたためでした。
確かにモダンイタリーには他の国の弦楽器にはない華やかさや豪快さは確かにあります。しかし山本さんのチェロにはイタリー製には無い繊細な日本の良さが確実にあるのです。これはどちらが良い悪いとか言えない問題なのではないでしょうか。

山本さんは製作の他、楽器の修理販売、調整にも独特の感性を発揮されます。何より私達演奏家にとって嬉しいのは、その仕事の速さ。弓の毛替えなど即日OKです。
私の生徒達にも過去たくさんの楽器を山本さんの工房から購入していただきましたが、皆さん大変満足しておられます。
これからも頑張って頂きたいものです。

出来れば将来山本さんにはもう一台チェロを作って欲しいと思っております。

終わり