普段生活していますと、均衡のとれた身体左右のバランスの重要性を実感することは実に多いものです。たとえば片方の足に靴擦れができたり刺が刺さっただけでも全く正常には歩けず、どうしても脚を引きずり身体のバランスを壊してしまうものです。
数年前私は右耳に突発性難聴を経験し、左右の聴覚のバランスの大切さが身に染みましたが、耳が片方聴こえないだけでも、酷いめまいと吐き気、平衡感覚を失い全く立ってもいられませんでした。(幸いにも通院と投薬で完治しましたが。)
現在私は脊柱管狭窄症を患い、左足にも痺れや痛みがあるので、体は下半身を庇うためにどうしても左前方に傾く傾向にあります。その結果として今まで問題なかった所にまで傷みが出たりして、以前にも増して体の重みを感じる生活を余儀なくされています。健康は大切ですね。
 
意外にも取り沙汰されることは少ないのですが、楽器を弾く時も体の左右の良好なバランスは大切です。今日はチェロを弾く時に必要なバランスについてお話しします。
 
たとえばピアノでは楽器の中央に腰をかけ、体は左右ほぼ同じ動きをするのでそんなに神経質になることは無いかもしれません。しかしチェロの演奏において体の左右は一見全く異なる運動をするため、問題はもっと深刻です。
左手は指で弦を押さえ、右手は弓を持ち左右上下に動かす。一見全く異なった動きにみえます。しかし理想的な左右の手の動きには両肩や脊柱を中心とする角度や重力における絶妙なバランスが必要なのです。チェロを構える両手は重力によって「同時に」下に下がろうとしているということ。これはピアノ演奏と同じことなのです。また重力に抵抗しながら弾いている、とも考えられます。
 
◎ 分かりやすい例
 
チェロを習い始めると大抵は解放弦の練習から始めますが
、ただ単純に解放弦をブーブー弾いていてもあまり意味がないのではないか、などと考えたりするのです。弓も真っ直ぐに動かし難いし、きれいな音も出ない。身体のバランスがどうしても右側に片寄るからです。つまり、片足で立っているのと同じようなものだと思います。身体の左右のバランスから考えると、右手だけ練習しても意味はないのです。バイオリンでの解放弦練習でも左手は必ず楽器の肩にあてがいますよね?同じようにチェロでも少なくとも左手は必ずチェロの肩に置きます。手のひらをネックの裏に当てて支えている人を見かけますが、肩の方が良いです。それだけでも左手を置いた時と置かなかった時とでは明らかに音が異なることが実感できるでしょう。
また右肩が上がり過ぎてしまうときなど左手を楽器に添えるだけで予防することができます。左右のバランスがとれるのです。私のレッスンでは弓の構え方を教える時、まず左手も右手と同じ構えの形(左右シンメトリー)をさせています。その方が理想的な構え方を理解しやすいのです。
 
またある程度弾けるようになった生徒でも、力んでしまい、右肩や右肘が上がり突っ張ってしまうことは多いものです。
こんな時、生徒にいくら肩を下げろ下げろと言っても下がるものではありません。こんな時は意識的に左肩も上げてみるのです。両肩が上がった状態のあまりの苦しさ不自然さにそこで身体が初めて気付き、無意識に右肩から先を身体自ら半ば強引に理想の位置に戻すのです。
 
 
 
◎もっと上達した方の場合
 
ある程度上達した方だけでなく、オーケストラなどでも活躍している方の中にも、どういう訳か身体の左右のバランスを壊している方を見かけることはよくあります。
極端に言うと、左指を強く押さえているのに弓は浮いて音は貧弱、ということは本来ないはずなのですが結構あります。左指を強く押さえつけている時は弓も弦に押さえつけているものなのです。またその反対も見かけます。
ですから、その場に合った力加減で弾かなければならないのです。淡い音色が欲しい時、弦に対する弓圧は弱くなります。弓も指板に近くなるでしょう。そんなとき左指の弦に対する圧力も弱くなって当然です。(浮いてしまってはだめですが) 速いパッセージを弾くときは左指は軽くボウイングも自然と軽くなりますよね?
 
◎また、こんなことも考えられます。
 
どうしても弓が弦としっくりこない、音がかすれる、弓が震える時など、左指がしっかり押さえられていない(音のツボをしっかり把握できていない)ことがとても多いのです。
このような場合は意識的に左指を少し強めに押さえてみてください。簡単に問題は解決することがあります。
 
このように、身体の左右は深く関係しています。左手は上手いのにボウイングは全くダメということはあり得ません。ボウイングが悪ければ左手も悪いのです。
問題解決の鍵は身体左右のバランス改善にあります。IMG_20180407_194252_604