今日は弓の「反り」についてお話しします。
皆さんは弦楽器の弓は、日本刀のように反っているのをご存知ですか?
この反りがあるため弓は弦に密着し、延びのある音色を生み出すのです。
日本刀もこの反りおかげで切りやすく殺傷能力を高めているわけで、外国の刀のように突き刺すことを重視したものとは次元が異なります。
弓にもバロック時代の弓のように反りが無かったり、少なかったりするものがありますし、また反対側に反ったものがあります。しかしこれらの弓はバロック時代の作品や、その時代の楽器や弦を使用するときのみ効果を発揮するのです。
反対に言えば元々ガット弦はとてもしなるので、弓の方は反りによる「しなり」によって楽器を鳴らす必要性がないとも言えるのではないでしょうか。したがってバロック弓には、モダン弓のような弾力性がなく硬い材料が選ばれるようです。
現代の弦楽器は構造上、弦に強い張力を与えるために弦と駒には急な角度がつけられています。その張力に耐えるためにはガットに金属を巻いたり、全体が金属で出来た弦が必要となります。ですから弓もバネが強く、剛性の高い材質が求められるのです。
それらの要求に適合するのはペルナンブコというブラジル原産の材木です。
 
高級な弓には必ずこの材料が使われます。
 
さて、弓とは元々あのように
反った形に削られ製造されると思っている方が意外とたくさんいらっしゃいます。
 
実は、元々弓は真っすぐな形で削られるのです。それを火で熱し圧力をかけて、ご存知のような反りのかかった形状に整形します。
 
元々真っ直ぐな形で作られ圧力をかけられた材料は、元に戻ろうとする性質があります。反りが戻る、これは材料の良し悪し、使い方に関係なくどんな弓にも起こる現象です。演奏する者は常に自分の弓の状態をチェックしていなければなりません。また弾き方が悪く弓全体が歪むことがありますが、これは問題外です。
 
もし、反りが戻ってしまった弓は、また熱をかけて反りをつけ直さなければなりません。簡単に反りをつけ直すと言っても、これはなかなか難しい作業です。信頼のおける職人に修理を依頼することが絶対に必要です。そのためには常に色々な職人と付き合い、その人の技術(人となり)を観察する必要があります。そして、一度相性が合い信頼することができれば、ずっとその職人と付き合い、職人を頻繁に変えないことが大切です。
 
実は、私がセカンドボウとして使っているHill&Sonnsの弓も最近反りが戻る傾向にあり使い難く、気になっておりました。
そこで先日、行きつけの楽器職人である大阪天満橋の山本正男さんに反りの修正を依頼しました。出来上がりはそれは見事なものでした。極端に言えば弓の価値が倍くらいに上がったのではないか、と思っております。いや、元々の性能が戻っただけと言うべきでしょう。
 
よく、良い材料を使っている弓なのにも関わらずバランスが悪く使い難い、こんな場合は大抵反りの頂点の場所がずれていることが多いものです。その弓にとって最良のバランスの頂点を探ることができるのは良い職人にとっては必須条件でもあります。
また最近なんとなく弓が動かしにくい。こんな時も弓の反りが原因ということは結構多いものです。
材料、造りとともに、反りは弓にとってとても大切なものです。
 
皆さん、ご自分の弓の状態は常にチェックしておかれることをお勧めします。
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