◎其ノ四
“まいど” 続き

入口の障子戸を開くと、左には太った女将さんが座っていて客の注文を聞いています。ここが彼女の定位置。右には炉がどっかりと鎮座し、その炉をコの字に囲むようにカウンターが設置されています。炉端の前では小太りのマスターがいつもと変わらない笑顔で“まいど!”と挨拶してくれます。
なんと懐かしい雰囲気!
左の隅に大きな太鼓があるのに気がつきましたか?これについてはまた後でお話しします。

さあ、生ビールを飲みましょう!

少し歩いたのでまたお腹がすいてきました。カウンターの前のケースにはいろいろな食材が並んでいます。来るたびにその日その日の美味しくて新鮮なものがいっぱい詰まっていて、どれにしょうかほんとに目移りしてしまいます。
値段表示はありませんが、飲み物も食べ物も全て320円!

とりあえず、椎茸と獅子唐辛子、蛤などを焼いてもらいましょうか!
陳列ケースの上には大きなトマトが! それも切ってください。

ビールもたくさん飲んだのでこの辺で焼酎に切り替えましょう。
さっき行った来々軒には焼酎は置いていないので、先程から楽しみにしていたのです。来々軒のマスターは元々九州出身なのに、焼酎は嫌いなんですって。そりゃビールが嫌いなドイツ人もいますもんね。それは人の勝手というものでしょう。
でもそこは商売。嫌いな物でも置けば客は喜ぶのにねぇ。
あの頑固親父め!

さてこの辺で“まいど”のマスターに登場願いましょう。
ここのマスターは声が良いことでこの辺りではちょっと知られた人物です。
彼は“河内音頭”の名音頭取りなのです。毎年お盆の時期になると、この地域の盆踊りでは大活躍。美声を聞かせてくれます。
河内音頭とは大阪東部、すなわち昔の河内の国に古くから伝わる民謡のことです。
河内音頭の歌い方は、新聞読み(しんもん読み)といって、その時その時に起こった時事ネタを題材に即興で歌っていくというものですが、とても長いのが特徴です。普通短くても30分は唄います。ある一定のリズムパターンやメロディーがあるのですが、常に自由。和製ラップとも言えるでしょう。とにかく明るい!
ひとフレーズ終わる毎に合いの手が入ります。その言葉は、“♪エンヤコラセー ドッコイセー!”。

彼は気分が良い時はお店でも唄ってくれますよ! 
その時に使うのが先程お話しした店の左側に置いてある太鼓なのです。
以前は彼のお嬢さん(太鼓の名人でもあります)が叩いていましたが、結婚されて別の所に住んでおられるので今は女将さんが叩いています。
小さいお店全体が熱気に包まれます。

お盆の頃、是非こちらへ遊びに来てみてください。今津小学校校庭で催される盆踊りでは“まいど”の親娘によるセッションが楽しめるはずです。 

ウィッ…!、少々酔っ払ってきたのでこの辺でお開きにしましょう。この店はいつ来ても安くて美味いですね!
帰りはしんどいので電車で帰りましょうか。

終わり