最初に林峰男先生の所にレッスンで持って行った曲は、ブラームスのソナタ、ホ短調でした。最初に全部通して弾き、全体的な問題を明らかにする。次に細かく部分的に指導を受け、その後再び全曲を通して弾く段階になると、一楽章ですら弾き切ることが出来ない。弓を保持する力も残っていない、つまりそれまでチェロを真剣に弾いてこなかったということの証明でもありました。その時の悔しい思いは今でも忘れることはできません。その時、自分の日記には、この日、自分は最高の楽隊屋、オケマン(すべてが都合がいいように適当に誤魔化しながら、それとなく弾くプロオケのプレイヤーの蔑称)であったことが証明された、と書いたことが思い出されます。腰が抜けたというか、とにかく衝撃的なレッスンでした。今までは表面的にただチャラチャラと弾いていただけなのです。君の演奏にはフォルテもピアノもない、とも言われました。あまりの弾けなさ、不甲斐なさ、情けなさでレッスンの明くる日は寝込む、ということの繰り返しでした。