それから一年三ヶ月が経ち、私はツューリヒからローザンヌの林先生のご近所に下宿することになりました。
私と同じく林先生の一人の生徒の家に下宿の依頼をして下さったのです。
先生のお宅からは歩いて20分くらいの所、裕福なお医者さんのお宅でした。
このお宅からもレマン湖やサヴォイアルプスが見え、素晴らしい所でした。 林先生のお宅よりも少し標高が高いらしく、より視界は広くて夜になると湖対岸の街エヴィアンの灯が見え、先生のお宅への道からは、ジュラの山脈も遠望できます。
林峰男先生には感謝の言葉しかありません。私のようなたった一人の生徒のために下宿探しまでしていただいた、それを思うだけでも胸が熱くなります。
レオポルト・モーツァルトもその本で言っていますが、教師はいかに行動で生徒に示すことが出来るか、それが大切だ、と。
林先生はまさに教師の鏡。
先生のレッスンはとにかく厳しく、妥協は一切許されません。先生は怒るととても怖い。しかし根底にあるのは生徒にたいする深い愛、それと理論に基づく説得力、それのみです。怒られても説明が論理的で理不尽に怒られている感覚が全くない。
自分の感情のみを生徒にぶつけ、怒ってただ怒鳴りちらしているだけで、ただ怖いだけのレッスンはよく見受けられるし話にもよく聞きます。生徒の事を考えもせず、ただ怒るだけのレッスン、考え方によってはこんな楽なことはありません。

私も林先生のような人を導き胸が熱くなるような素晴らしいレッスンがしたい、そして日々それに近づける、それのみを目標にしております。