◎4 それぞれの楽章第一楽章

まず第一楽章出だし。ニ短調の主和音で始まりますが第三音(ドミソだとミの音)がないため、この部分を聞く限りニ短調ともニ長調とも判断がつきません。その効果は聞く人に不安というか、混沌とした気分にさせます。このイメージの発想は一体どこからきたのでしょうか。当時の音楽で調性がないなど考えられないことです。他の楽章でも調性不明の箇所は度々でてきます。その意味でもこの曲は後の作曲家に多くの影響を与えました。
この混沌とした状態がしばらく続きます。その間聞こえてくるのは閃光のようなバイオリンや地鳴りのようなコントラバスの音ばかり、その他は六連符を弾いたり、長い音を延ばしたりしています。この長い序奏は第一テーマのあの荘厳さを無条件に引き出してくれます。
第二テーマはそれとは反対に一見美しく優しさがあるのですが、つねに不安感は付きまといます。焦燥感が拭い去れません。
長い展開部を経てやがて第一テーマが再現されますが、最初の部分に比べて遥かに発展した形で戻ってきます。そして何よりも戻り方が劇的です。ベートーベンの音楽でも最も劇的でかつ鮮やかな部分ではないでしょうか。最小限の素材で最大の効果を得る、ベートーベンの作曲の手腕は天才のみ到達した世界なのです。
私はこの楽章からは安らぎや満足感はあまり得られず つねに恐れ、苦悩や不安感に苛まれます。この楽章を最後まで弾いたり聞いたりするだけで、もうぐったりです。 その上、息も注がせない第二楽章に突入します。