◎其ノ三

では各調子のスケールをいかに音楽的に美しく弾くにはどのようにすれば良いのか。
音階にはストーリーがあることは何度も申し上げた通りですが、音階のどの部分に最も印象的なドラマがあるのかをまず見てみましょう。
端的に言いますと、それは半音の部分です。
二カ所の半音が持つ独特の微妙さが全音との絶妙なバランスを生み出しているのです。この事実が西洋音楽をここまで発展させたと言っても過言ではありません。
半音を全く含まない全音階とか五音音階も考えられますが、それらで作られた曲もヨーロッパではあくまでもマイナー的な存在です。
日本音楽では沖縄県を除き五音音階を使用しますが、日本では音階の発展よりも“間”とか“侘び寂”というメンタル面での発展が重視されてきました。
絶妙な全音と半音のバランスで成り立っている音階とは不思議なものですね。

また音階は二つのストーリーによって成り立っているとも考えられます。
それは最初のドレミファと後半のソラシド、という分け方です。
実際にもっと理解しやすい方法として、ドレミファが二回重なったものという考え方もあります。つまりドレミファドレミファということ。オクターブ内に二つの調が存在すると考えたのでしょうか。実際にこの考え方を推奨する先生もおられます。
実用的な考え方としてこの方法は、メロディーを弾いたり歌ったりする時には“便利”であるかも知れませんが、この考え方だと初めのドの音と二回目のドの音は同等で同じキャラクターになってしまいます。この世には根本的に平等や同等はありません。ソラシドはドレミファにとって変わることは不可能だと私は思います。やはりソラシドはソラシド。ドレミファの陰に(影に)ならないとダメです。言い方を変えるとドレミファは問、ソラシドは答。または表と裏とでも言えましょうか。
この世はすべて陰と陽、二元的な要素で成り立っていることの表れとも考えられると思います。
音階は宇宙。音階内にはあくまでドレミファはドレミファ、ソラシドはソラシドとして全く異なるストーリーとキャラクターとしてひとつの世界に共存しているのだと思います。
以上のように音階とは、決して単なる音のずり上がりやずり下がりではないということを理解して頂きたいと思います。

では絶妙なバランスで成り立っている音階、特に微妙な半音を実際どのように弾けば良いのでしょうか?

つづく