◎其ノ二

さて、皆さんはどのような方法でスケールを練習しておられますか?
いろいろな指使いのシステムがあって、とても難しく苦しい練習を強いられることには変わりないと思います。
でも、なぜ音階の練習が、ここまで退屈で、無機質なものになっているのか。
それはあまりにも音楽から切り離され、その習得がまず第一の目的となってしまい、単なる指の訓練になってしまっているからではないでしょうか。またその苦労が実際の演奏に活かされていない、ということも多いものです。

教則本のなかには、いろいろなソナタや協奏曲から音階の部分を抜き出して、課題として掲載している物もありますが、それを全調に渡って応用するのは、それはそれでまた別の困難さを伴います。その音形は作品のその部分だけにおいて有効なのですから。

スケールのシステムのなかには一般的な開放弦を含むものや、開放弦を全く含まないもの(フーゴー・ベッカーのシステムなど)まで様々です。ベッカーのものは、例えばフラットやシャープが多い調を弾く時に、同じ指使いで弾けますので指使いを考える時、便利といえば便利かも知れません。そして全ての音をヴィブラートをかけてたっぷり弾く時には確かな効果があります。

しかしチェロの音を音響的な効果の面だけで考えてみると、開放弦の持つ明るい響が要求されることも多々あります。また調子は、シャープやフラットが多くなればなるほど開放弦の出番が少なくなり、響が暗く篭った音に変化していきます(作曲家はそれを目指している場合があります)。そこを無理してまで同じような響にしてしまう必要などありません。

ですからハ長調やト長調、ヘ長調などシャープやフラットがせいぜい二つか三つ位の曲は出来るだけたくさん開放を使い、低いポジションで弾く方がその曲が持つキャラクターが表現しやすいのではないかと思います。特にバッハの無伴奏チェロ組曲などでは、開放弦がヴィオール族の楽器の響のように共鳴弦として使えるために出来るだけ開放弦を多用して弾きたいものです。またバッハ独特の隠された声部による作曲技法が開放弦を多用することによってより感じ取ることが容易になるので、調号の少ない調のスケールはボウインクの練習も兼ねて練習をすれば良いと思います。
演奏する曲のキャラクターによって、いろいろなスケールシステムを使い分けることができたら、これに勝ることはありません。

つづく