◎其ノ二
音楽家という仕事

世の中を見渡してみると、少し前まであったのにもう姿を消してしまった仕事って結構多いものですね。例えば電話の交換手、フィルムを使った写真製版技術、SLの機関士、等々。数年先には無くなってしまう仕事もあるかも知れません。コンピューターや機械が人に取って代わってしまう場合が実に多いようです。コンピューター関連の新しい仕事はどんどん生まれています。
携帯電話関係の仕事などほんの二十数年前までは存在すらしませんでした。他にも新しい仕事は益々増え続けるでしょう。しかしそれらの新しい仕事が、この先数百年数千年に渡って存在し続けるかといえば、それは甚だ疑問です。恐らく片手で数えるほども残っていないかも知れません。

次に人類が地球に生まれた最初から有り続けた仕事とは何でしょうか。
占い師(占星術師又は天文学者)、祈祷師(または医師)、などどれも古来より人の生活には必要な仕事ばかりでした。
占い師は遠い昔では作物の出来高を知る上で欠かすことができない仕事でしたが、現代ではそんなに必要とはされないでしょう。
医者も“最終的には”人の命を救うことなどできません。
その中で音楽家は常に人々の生活と共に有り続け、また慰め続けてきました。この先、恐らく最後の人類が滅亡するその日まで有りつづけるでしょう。
昔、映画で見たタイタニック号の楽士の姿を見て感動した事をふと時々思い出します。

人は音楽を常に欲しているのです。
人は死ぬ時は医師や僧侶の世話にはなりますが、死に臨む人にとって最終的に慰めになるのは人の温もり、そして音楽ではないでしょうか。産まれた時、母に抱かれ歌で慰められたように。

◎音楽家を志す人へ

その意味で音楽家はやり甲斐のある仕事なのです。私は最高の仕事だと思っています。確かに音楽で巨万の富を手に入れることは難しいことかも知れません。
しかし金だけではない大切な物を確実に得、かつ与えることが出来る仕事は音楽家なのです。
経済的な理由で音楽家の道を断念する人は多いものです(音大を卒業しても)。しかし、今は苦しくてもかじりついて続けていれば、必ず報われることがあるはずです。どんな形でもやり続けてください。
私自身も音楽家になったことを喜び感謝しながら生きています。