◎ 1 弱い親指

今回は親指のポジションの難しさについてお話ししたいと思います。
チェロを何年もやっている方は経験されたことがあると思いますが、親指が痛い、オクターブや3度、4度が決まらないなど親指のポジションの習得には骨が折れます。

では、チェロの演奏において親指を使うことが、何故そんなに難しいのでしょうか?

実際、親指のポジションで弾いてみると。強いはずの親指が結構弱いことに気がつきます。なぜ、ここまで弱いのでしょうか?

まず、親指の動きを見ていきましょう。
親指は他の指に対して動く方向がまったく異なります。物を掴むため、他の指と相対しているのです。
物を掴むためには、他の4本の指に対抗するため太く筋肉も強くなければなりません。しかし物を掴むための強い親指は、弦を押さえるための動作に対しては、まったくの非力でもあります。掴むための筋肉はほとんど使われることはないからです。親指はあくまで物を掴む時にその力を発揮するのであり、弦を押さえる時は、結果として他の指よりも弱く俊敏さにも欠けることにもなってしまいます。この事が親指のポジションでの音の不安定さにつながっているのです。

では、親指はどんな力で弦を押さえれば良いのか?
まず大切なのは手首の強さとしなやかさです。使う主な筋肉としては、親指の付け根の筋肉、及び前腕の筋肉です。
簡単に言えば、肘から親指の先までの力の流れが途切れないように構えるのです。
その理想的な肘から手首の一体感を得るための準備的な動作として、他の指を親指に添えて構え、つまり手を“グー”の様な形にして親指を弦の真ん中のAとDに構えます。
“この形は最も手首が安定する形です。”
この時、肩には力を入れず腕全体の重さが親指の先にかかっていることをイメージします。手首が上がっても下がってもいけません。これが理想的な親指ポジションの構え方です。親指は独自の力で弦を押さえるのではない、ということが理解出来ると思います。

やがて親指にかかる弦の感触に慣れれば、他の指を親指から離しましょう。この時、手首や親指の感触に変化がなければ一応の構えが出来たことになります。

次に、実際に親指の使い方について説明してみたいと思います。

続く