◎ 楽器の選び方については幾度となく私の考えを説明させていただいておりますが、今日も私がレッスンをさせていただいているある一人の生徒の場合を例にお話しします。

私の教室には一人とても小柄な女性がチェロのレッスンに通っておられます。年齢もそんなに御若くはございません。
身体に加えて手も小さいのです。私のレッスンを受けるまでその方は、他の大手楽器メーカーが主催する音楽教室でレッスンを受けておられたそうですが、縁あって昨年11月より私のレッスンを受けることになりました。
最初、体験レッスンに来られた時は取り合えず私のフルサイズのチェロを弾いていただいたのですが、あまりにも楽器が大きいことにびっくり。腕がとどかず弓も真っすぐには動きません。まるでコントラバスを弾いているかのような印象を受けました。チェロが全く身体に合っていないのです。
これ以上のレッスンは不可能と判断した私は、フルサイズでのレッスンを諦め、急遽、以前にもブログでも紹介したことがある私の古いフランス製の小さい楽器を弾いていただいたのですが、彼女の身体にピッタリです。
弓も真っすぐ動きます。とにかく楽に弾けるのです。これでやっと落ち着いてレッスンを進めることができました。
彼女も小柄な上に少々高齢の域に達しておられるので、若い人のように小柄でも頑張って大きな楽器を弾きこなすだけの体力も無いように見受けられました。その時はつくづく身体に合った楽器を弾くことは絶対必要だと痛感したのです。
私自身もその時、小振りのチェロを持っていて良かったと思いました。

その生徒にお話を伺うと、お宅ではカール ヘフナー社製のフルサイズのチェロを使っているとの事。身体に合った大きさの楽器を使うことの重要性を説明させていただきましたところ、小振りのチェロに買い替えるということに決心されたのです。

確かに楽器は小さな物に比べて少しでも大きい方が音量や音色は確かに豊かです。特に低音域には有利です。
しかし、大人だからという理由で無理をしてまで大きなものを使う必要など私はないと思うのです。
もしもとても素晴らしい楽器があったとすれば、それがプロならある程度は我慢しても、身体をその楽器に合わせて使うまでの価値はあるのかも知れませんが、アマチュアが使う程度の楽器なら身体に合った物を使う方が後々何かと都合の良いことの方が遥かに多いものなのです。
楽器に関しては大抵の場合、大は小を兼ない事がほとんどです。
そこは楽器を売る立場、ましてや教える側の方にはもっと習う方の側に立って真剣に考えていただきたいものだと思います。楽器を売り付けておしまいでは音楽の普及を阻害していることに変わりがないのですから。

さて話を戻しますと、後日私の知り合いの楽器工房に8分の7のチェロがあるということで、早速その生徒と共に見にいきました。
ゼムリンガーというチェロです。ヘフナーと同じくドイツの量産的な楽器です。へフナーに比べると音は幾分明るいようですね。分数にも関わらずとても良く鳴ります。そしてとても丁寧に作られていているところが教える側にとっては安心できるところです。特に表板はスクレイパーをかけて冬目が浮き立つように削られており、見栄えもとても良くなっております。
8分の7とは言っても弦長ではフルサイズに比べると2センチも短いので、小柄な人にとっては弾くことがとても楽になります。

生徒の方も気に入ったようなので、その場で購入を決定されました。
さてその生徒が今まで使っていたカール ヘフナーのチェロはどうしたかといいますと、
ヘフナーなどの量産楽器は楽器店で下取りに出すと一般的にとても安くなってしまいます。
長年愛着をもって大切に弾かれたチェロ、今回は敬意をもって例外的に私が引き取らせていただくことにしました。
そのヘフナーのチェロについては次回にお話しすることにさせていただきます。

取り合えず終