◎ レッスンで生徒の上達具合を見てますと、ほんとに人それぞれですね。
私の教室では全体的にみて音階(スケール)練習を真面目にやっている生徒は比較的上達が早い傾向にあります。
その練習がたとえ先生から強要され渋々やっているにせよ、やれば全体的に音程そのものも自然と良くなりますし、それが無意識であったとしても曲を弾く時に必要なポジション移動もメロディーに対応できたスムーズな動きでできるようになります。
調性感も安定します。音階は音楽の素材そのものなのですから当然のことでしょう。

私のレッスンでは生徒には最も初歩の段階から音階は欠かさず練習させています。
左手4本の指が一応たどたどしくても使えるようになった段階になれば、すぐに音階練習に入ります。
例えばハ長調、ト長調、ニ長調、イ長調、ヘ長調、変ホ長調は1オクターブなら比較的簡単に弾けます。
この1オクターブ(ハ長調とニ長調は1stポジションだけでも2オクターブ弾けます)それだけの練習でも正確に弾こうとすると結構難しく、その努力の結果は後々の技術的な向上にも繋がりますので手を抜かずレッスンをしなければなりません。、その意味からも私の場合、音階練習にはレッスン時間の半分を費やすこともあるくらいなのです。

さて、その練習の方法ですが、私自身も気をつけているのは、ハ長調なら問題ないのですが、調号が付いてきたときに移動ドで音階を感じること、これがとても大切です。つまり、例えばト長調なら固有の音列はソラシドレミファソになります(これを固定ド唱法と呼びます)。それをハ長調と同じようにドレミファソラシドと感じさせるのです。人には音階イコール、ドレミファという固定観念がありますからね。つまり音楽はドレミファ。決してレミファソではないのです。レミファソ…やミファソラではメロディーになりません。

ましてや調号として♯や♭が五つも六つも付いてくると、それだけで拒絶反応を示す人がいますが、いくら♯や♭が多くなったとしてもこの移動させたドレミファ(移動ド)で音階を音楽として感じない限り自然なメロディーとしてはなかなか聞こえてはこないものです。音程も酷く取り難くなるはず(取りにくさが調性としての音色を複雑化させ微妙にしているのですが)。

特にかなりな年齢に達してからチェロを始めた方で、音が取れずなかなか耳がついていかなくて困っている時など、移動ドは効果的です。ドレミファ…と歌うだけでも音階として音は取れるのです。
最初は戸惑うこともありますが、すぐに慣れます。特にフォイヤールの「毎日の練習」ではポジション移動の課題がたくさん出てきますが、移動ドで感じることができないとこの本の使用は困難です。

付け加えて申し上げますと、移動ド唱法にも別の意味で問題もあります。例えば転調する時はどのように考えれば良いかなど、その辺の問題はまた別の機会にお話ししたいと思います。

以上、お話ししましたようにチェロの音階練習はテクニックを身につけるのには最適なのです。ご存知のように、チェロはバイオリンのように途中でポジションを変えることなくたくさんの調の音階を弾くことはできません。常にポジションの移動を伴います。多くの音階は1stポジションから始まり、いくつものポジションを経由しなければなりません。
その結果、昔からたくさんのスケールシステムが考案されたのです。
そう考えると、いろいろな指使いで丁寧に音階を練習していけば、ほんとにエチュードなど練習しなくても良いくらいです。
それにアルペジオ(分散和音)やいろいろなボウイングを合わせて練習すれば最高のエチュードになります。
それこそドッツアウアーやウェルナーなど弾く暇もなくなるでしょう。

参考にできる音階教本としては、クレンゲル、グリュッツマッハー、ベッカーなど。特にコスマンやフォイヤールの教則本に出てくる音階やアルペジオのシステムはお勧めです。

終わり