◎ 続き

楽器の構造も高くなったピッチへの変化に合わせて強い弦の張力に耐えるため、より力強い物へと改良が繰り返されました。
音が高くなって喜んだバイオリン弾きの立場とは裏腹に、とんだとばっちりを受けたのはヴィオラやチェロなど中低音楽器です。
ピッチが高くなることによって確かに音は大きく派手にはなりましたが、その楽器が本来持つ個性や長所が失われてしまったのです。ヴィオラやチェロが持つ最大の良さであるあの柔らかさや“ふくよかさ”は台なしになりました。
しかし、同時にそのバイオリン弾き達も大事な物を失いました。つまり、バイオリンが本来持つ艶やかさは高すぎるピッチによって全く影をひそめてしまいまったのです。
それに全く気がついていないバイオリン弾きの多いこと!

私の我慢できる高さではモダンに改良されたモダンの弦楽器の場合でも限界はせいぜいA=440ヘルツです。それ以上となると極端に言ってしまえば楽器の素材を変える必要性があります。
(だいたい現代の標準ピッチはA=440ということですがそれはもう過去の話で、現代のオーケストラ始め大抵のアンサンブルではもっと高くA=442か3が普通です。管楽器もその高さで製造されています。管楽器は下げることはある程度可能ですが、上げることは不可能です)
私の感覚では440を超えるとほぼ使い物になりません。楽器の音が崩壊してしまうように思います。

よく人は音が高くなればきらびやかな音になるなどと表現しますが、あれはきらびやかなんかではなく、楽器が苦痛の叫び声を上げているだけなのです。私には楽器の叫び声にしか聴こえません。
弦の圧力も増大するのですから、左指にかかる負担も増加しますし弓の毛が弦を捉える事も困難になるのです。つまり弦の張力に弓が跳ね飛ばされると考えていただければ良いと思います。
チェロならウルフトーンも増大します。

私の生徒にもレッスン時、最初はチューニングを基本的に440で合わせておりますが、音程感覚がしっかりしてくると、チェロの音色の劇的な変化を体感してもらうためにバロックや古典のピッチにチャレンジしていただいております。たったそれだけで音楽の世界観は確実に変化するのです。
いろいろなピッチで違和感なく弾くことができる、これは将来ある子供にとってもとても有益なことです。
なぜなら音楽をする者(または音楽を芸術として感ずる者全て)にとって最大の障害となる“絶対音感”が身についてしまうことを防ぐことができるからです。何故絶対音感が身についてしまうことが音楽にとって避けるべき事なのか、その辺のことについては、またいずれ改めてお話したいと思っています。

とにかく、この辺でもう一度楽器本来の魅力を取り戻すべくローピッチ、いや音楽にとって適正なピッチの時代に立ち返るべきではないでしょうか。

まず、いつもよりほんの2、3ヘルツ ピッチを下げてみてください。それだけで貴方のチェロは本来持つ声で柔らかく歌いだすでしょう!