◎ 歌う左手のために 3
 

ギターのようにフレットのある楽器の音色は透明度が高く、言わば天国の響きです。それに対してチェロのようなフレットの無い楽器の音は不純な響き、つまり人間の声であり大地の響きなのです。不純物があるからこそ人はチェロの音色に人間臭さを感じ共感するのかもしれません。楽器の音は天界から民衆の間へと降りてきました。これがバイオリンやチェロなどバイオリン族の楽器を使った音楽をより発展させ芸術として不動の地位を築かせた最大の理由だと思います。

さて、その人間臭い魅力を秘めたチェロを個性を生かし、いかに美しく響かせるか。
これは難しい問題です。

具体的な方法を考えてみましょう。

まず、音を点で捉えずに面として捉えるのです。
どういうことかと言いますと、
前にも言いましたように左手は、ツボの音を中心として少し高い音も低い音も同時に取るようなイメージで弦を押さえるのです。色々な音が同時に鳴っているからチェロの音は複雑で豊かなのです。

◎指先の眼

 では、どんなイメージで指を置けば良いのか、わかりやすく説明すると、しっかり大地を踏み締めながら歩むイメージです。足(指先)の裏に目が付いているようなイメージを持ちましょう。そして足元をしっかりと確認するように確実に大地を踏み締めながら次の足(指)へ滑らかに繋ぎます。小走りで早く進みたい時は、少し爪先立つて進めばいいのです。

すべての音が生かされるように、決して強く弦を押さえ過ぎてはなりません。いつも指先に弦の振動を感じているべきです。よく、しっかり弦を押さえて、というと力ずくで弦を握りしめる人がいますが、それは間違いです。
音色が薄い、または単純な音しか出せない人は大抵指先の骨だけで弦を押さえています。力ずくで弦を押さえることによって弦の響きを止めているのです。
その点、指の太い人は有利です。強く押さえても肉がクッションになっているからです。そして沢山の音を同時に取ることができます。しかし指の細い人でも工夫次第で充実した美しい響きを作ることは十分可能です。

続く