其ノ十二
その後、現在

スイスから帰国後、福岡には戻らず、故郷の大阪に住むことになっのは以前にもお話した通りです。
大阪でフリーの活動を始めた私は、今まで経験したことがないような忙しさを経験することになります。オーケストラに勤めていれば与えられた仕事をただ職人のようにコツコツとこなしていけばいいのですが、フリーではそうはいきません。
実に色々な仕事をしました。何しろ私には金が掛かり盛りの息子がいるわけですから、学費を稼がなければならないのです。
午前中は学校公演、午後は関西各オーケストラの練習、夜は本番、オーケストラがない時は録音の仕事、結婚式の演奏、パーティー、商店街の客寄せ演奏、はたまた町工場でのアルバイト等なんでもやりました。その合間を縫ってのレッスン、その頃はいちいち自宅に戻るのは面倒なので出張レッスンが中心でした。この仕事、とにかく移動が大変です。チェロと大きな荷物を抱え、会場に辿り着けばもうグッタリ。泊まりの仕事になるとそれは大変。宅配便を利用する事もあります。フルートなどの小さな楽器がどれ程羨ましく思えたことでしょう。
最初の二三年は年中無休、休日など殆ど無いような状態です。今そのようなことをすれば、確実に過労で倒れているでしょうね。
従って食生活も酷いものになってくるのは当然です。忙しいということは、それと同時にストレスを抱えることにもなります。
帰宅は毎日深夜。帰って食事するのも面倒になるので、どうしても外で食べて帰ることが多くなりました。それは塩分のとりすぎ、カロリーのとりすぎを意味します。
ストレスも多くなるので、酒の量も多くなりますし、どうしても沢山食べてしまう。またストレスは不眠症も誘発します。身体は疲れているのに全然眠れないという日が続くのです。まさに悪循環。
精神及び身体を健康に維持するのは至難の技、精神力の強さが不可欠だと痛感します。
さらに、数年後名古屋方面でも仕事をすることが多くなり、忙しさの度合いが益々増してきました。
名古屋は大阪から近いということもありますが、やはり仕事となると泊まりになることが多く、どうしてもホテルに滞在するというということになります。ホテル滞在中の食事はコンビニやファストフード中心。
そんな生活をしている訳ですから当時かなり血液の状態も悪いものでした。
そのような生活が20年位続いたでしょうか、やがて息子も大学を卒業、就職をするに至って、その分、経済面でも少し楽になりました。またその後、体調を崩し名古屋での活動を控えるようになったことをきっかけに、もう一度生活を見直すことにしました。食事も外食はなるべく避け、出来るだけ家で食べ、今では野菜中心の食事を心がけています。その結果血液もサラサラになりました。サラサラになったということは、身体の軽さ、思考力のアップ、根気の持続具合でも違いが実感できます。演奏面でも新しいアイデアが次々浮かび、自分で言うのもなんですが、チェロも昔より上手くなったような気がします。今はかつて無い程の健康を取り戻しました。
そのほか演奏活動も本当に自分がやりたい事だけをするようになり、結果としてストレスも以前に比べると遥かに少なくなり、精神面でも平穏です。
現在は、この健康を少しでも維持し、後進を育て関西に素晴らしいチェロスクールを作り上げるという理想に向かって邁進する日々なのです。

おわり