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バッハの無伴奏チェロ組曲で、ヴィオロンチェロ・ダ・スパラ(ショルダーチェロ)という楽器を使用して録音されたCDが現在2種類(私の知る限り)発売されています。
ヴィオロンチェロ・ダ・スパラ、スパラすなわち肩のチェロという意味ですが、写真のように楽器のネックとエンドピンに紐をつけ、肩からぶら下げて演奏します。バロックの時代に流行しました。このCDに使われている楽器そのものは2005年にドミトリー・バディアロフという作家により復元されたものです。
バロックの時代にはこのヴィオロンチェロ・ダ・スパラだけではなく、5弦や6弦のチェロも存在しましたし、現在のチェロよりもはるかに大きく、小型のコントラバスかと思うような大型の楽器も普通に使われていました。
それは当時の演奏家の楽器に対する考え方が現代人よりももっと自由だったからでしよう。音色に対しても現代よりももっと多彩な感覚を持っていました。色々な音色を楽しんでいたのです。
二十世紀以降、すべての楽器奏者は専門化が進みました。例えば、ヴァイオリン奏者はヴァイオリンしか弾かず、チェロ奏者はバロック時代の中型標準サイズのチェロしか弾かないし弾こうともしない。特にクラシック演奏家は音楽に対してこだわりが強すぎ。また自分がやる音楽や楽器に対して忍耐力や根性を求め過ぎるようになったからです。それは音楽からアドリブ性が排除され、色々な可能性を受け入れる精神的余裕がなくなってしまった結果だとも言えます。反対に考えると、音楽の発展が止まってしまったから、とも言えるのではないでしょうか。バロックの時代は何でも新しかった。現在のように芸術(クラシック)音楽、ジャズ、演歌などの明確な線引きはありませんでした。
 
楽器博物館などに行くと、展示されている楽器の種類の多さにいつもびっくりしますが、昔の人は音に対してもっと自由な考えを持っていたのでしょうね。音楽史を風を切りながら颯爽と進んでいた。もっと音楽を楽しんでいたはずです。ですから、バロックの時代だけでもあれだけ多くの楽器が発明され発展していったのだと思います。
 
さて、ジギスヴァルト・クイケンの弾くこのCDを聴くといろんなことを考えさせられます。
まず、聴いた第一印象は、四分の一などの子供用分数チェロで弾いているような音色。
第一番など、もっと大きな楽器で弾くほうが豊さを感じますが、第六番などの5弦を使う曲では音域の広さや音符の多さゆえの機動性や敏捷性が求められます。このような曲では普通のチェロよりはるかにこの曲の持つ個性を発揮させやすいのではないでしょうか。元々このダ・スパラという楽器のために作曲されたようにも聴こえます。実は第六組曲は、5弦の楽器で、と指示されているだけでどんな楽器を使うかという指示はありません。したがって日常的にはこの楽器のように小さな楽器で弾かれていたのかもしれませんね。他の曲に対しても、その当時存在したであろう、たくさんのチェロの種類からどの楽器を使うかなどの指示などはないのです。多分その時の状況によって器用に使い分けていたのでしょう。昔の人は現代人のように一種類の楽器しか弾けない、ということはなかったのです。
そもそもこのCDの演奏者ジギスヴァルト・クイケンもバイオリニストなのですから。
 
現代の私達クラシック演奏家も音楽に対してもっと自由な感覚を持ち続けたいものですね。
このCD、面白いですから是非お聴きください。いろんなことを考えさせてくれます。