◎第二話
ポルタート

これは元々“引きずる”という意味で、現代では弦楽器特有の弾き方の名前になっています。勿論、歌や他の楽器にも当てはまります。

バロックから古典の時代にも存在しましたが、この弾き方が極一般的に用いられるようになったのはロマン派の時代も後期になってからのことです。
具体的にどんな弾き方の事を指すのか説明しますと。美しいメロディーを心をこめて高らかに歌い上げたい時に、メロディーのスラーがかかっている音符に対して、弓を一回ずつ止めながら弾きます。歌や管楽器では1音ずつ息を止めながら演奏します。強いて文字で書けば、“ハハハハー”といった感じになります。(音を文字で表すのは至難の業ですが)
記譜法としてはスラーと共に点、楔、テヌートで示します。

バロックから古典の時代では作曲家がフレーズに独特の音色を要求するときに用いました。特にJ.Sバッハはこの奏法を好んで用いました。彼の作品で同じ音にスラーだけが書かれているのをご覧になったことがあるかと思いますが、これは明らかにポルタートです。バッハスラーと呼んだりもします。弓は止まっていそうで止まっていない。独特の雰囲気を醸し出しますが、残念なことに、現在ではそのスラーを切って弾かれることがとても多いです。切ってしまえば何の意味もありません。

ポルタートは独特の音色が必要な時など極控え目に用いるのが正しいやり方だと思います。ロマンも爛熟期に入ると歌でも楽器でもメロディーをこれでもか、と言わんばかりに歌い上げることが流行となり、何でもかんでも(作曲家の指示がない場合で)もポルタートを付けて演奏することが主流となりました。この弾き方は現代でも主流であることには変わりありません。バッハが要求したポルタートは無視して、何もない所にポルタートをかけて演奏するのは不思議としか言いようがありません。

特に現代ではどの音にも習慣的に又は無意識にポルタートをかけて演奏する人が多いと感じます。特にバイオリン奏者に多く見られます。
ポルタートをかけることによってメロディーは確かに浮き上がって聞こえはしますが、むやみに使うとメロディーが単色で平坦、厭味になりやすく、微妙なニュアンスを殺してしまう危険性は十分にありますので、細心の注意をもって使うべきです。
元々、独特のニュアンスを得るために考えだされた奏法なのに皮肉なものですね。
ポルタートはヴィブラートと同じように、かかりっぱなしだと、結果としてかける意味がなくなり、何もかけてないのと同じことになってしまいます。
かける場所を吟味してかけてこそ、かける意味となり演奏効果として現れるのですから。

終わりuntitled