◎其ノ二

先程も申し上げたように、師匠との関係には相性の良し悪しという問題があるのは間違いないことです。また、どんな先生と出会えるか、これは運であり、縁の有り無しの問題でもあると思います。これは人の出会い全ての場面にも言えることではないでしょうか。
必死で探しに探して、やっとの思いで見つけた先生も、有名な先生なのに、いざ習ってみると自分にはどうしても先生の言うことが頭に入ってこない、要求が難し過ぎてついていけない、または先生の人格が理解できない、など。
つまりそれは先生との相性が悪いということでしょう。
また、たまたま飛び込んだ教室の先生が、有名ではなくてもとても素晴らしく、以後長年師事することになった、という話もざらにあることです。
人との出会いというのは凄い確率であり、まさに奇跡。
あの時ああしていなければ、この人とは絶対にあの人には出会うことなどなかった、またこうしていなければ絶対こんなことにはならなかった、などと考える時、出会いや縁の不思議さにいつも感動します。
なにか大きな力で操られているような気分にさえなります。
ですから、一度私の門を叩かれた生徒の方には、これは何かの縁だと思い、誠心誠意尽くして付き合うようにしています。そこで相性が合わないと言うのならこれは縁が無かったということです。こんな場合は無理に続ける意味はありません。
来てくれたた生徒は何かの縁があって来たわけですから、生徒は全て平等に接しています。
その意味から、体験レッスンはとても良いシステムだと思います。これは多分、大手の音楽教室がはじめたシステムだと思われますが、特にチェロでは昔は有り得ないことでした。チェロを教えてくれる先生も少なかったので大抵、知り合いのつてを頼り、やっと一人の先生にたどり着く、といった感じで、その先生との縁は大切にしたものです。たとえその先生と相性が良くなくても、我慢して続けていました。
今は、チェロを教えてくれる音楽教室も増えました。それぞれの教室では体験レッスンをしていますので、このシステムを有効に利用すれば良いと思います。
体験レッスンで重要なことは、まずレッスンで受ける第一印象ではないでしょうか。これはとても大切なことです。
たった一回のレッスンでは先生が言いたいことなど、ほとんど何も分からないものです。本当のレッスンとは長い期間を通して先生と生徒の信頼関係を築くことにほかなりません。体験レッスンではその場の雰囲気や先生の人格だけを感じ取ればいいのです。
体験レッスンでは先生も生徒の雰囲気を感じ取ろうとするものです。
私の場合はたとえ体験レッスンでも、生徒の個性を汲み取り、できるだけ教室の方針や自分の考え方を理解していただきたいために時間を最低1時間は取っています。

つづく