◎ 歌う左手のために 4
では、一体どうすれば弦の振動を指に感じ取り、より美しくチェロを響かせることができるのか?
指先ではなく指の腹に近い所をつかうのです。もちろん早いパッセージには不向きでしょう。しかし柔らかな音色でチェロを歌わせるためには、こんな効果的なことはありません。
関節を使った柔らかいヴィブラートにも力を発揮します。
これは指が細い人や指先より爪の方が長く出ている、いわゆる蹄型の指の人には特に効果的です。指先だけでは困難であった、弦を押さえる面積をなるべく広く、沢山の音を取ることが容易になるのです。
もうひとつ利点があります。
指先には沢山の神経が集まり、少しの傷を付けただけでもとても痛いものです。爪を傷つけようものなら大変なことになります。
指の腹も同じようにとても敏感な部分です。むしろこの部分の方がよりデリケートだとも言えるかもしれません。触感と言われる感覚はむしろこの部分で感じる感覚のことを指します。身体で最も“感じる”部分のひとつ、ある意味、“性感帯”とも言えるのです。
点字を読む人も指先ではなく指先の腹の部分で点を感じ字として判読しているはずです。同じように、指の腹は弦の振動をより“感じる”ことができるのです。
この部分を活用しない手など有り得ません。もちろん指が太い人も指の腹を有効に活用すれば音色がもっと多様化されるでしょう。
いつも指先だけしか使わないというのでは、みすみす宝物を見落としているようなものです。
この発想は弓の持ち方にも応用できます。
次にそのことについてお話ししましょう。
続く
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