実践編 1

そう言う、あがり症である私も悪あがきといいますか過去には色々な方法を試してきました。それが人情です。
例えば催眠術のテープを毎日聴いたり、精神を落ち着かせる食事療法を試みたり、色々な呼吸法を行う、などいろいろやってきました。しかしこれらはこれといった効果も無いどころか、かえって逆効果をもたらすものがほとんどでした。なぜかというとテープを聞いたこと、あるいはあがりに効く食べ物を食べた、ということが頭にこびりつき、もしこれで効かなかればどうしようと、かえって不必要に意識してしまうのです。テープを聞いたのになぜあがってしまうのだろう…と。
かえって動揺してしまい、あがりを増幅させてしまうのです。それが最も恐ろしく、精神のコントロールを完全に失います。糸の切れた凧のように。
もしもあがり対策のCDを聞いたり、本を読んだりいろいろな方法を試すのなら、あまりそれらに期待をかけすぎないことが大切ということです。

しかし、あがりは治らないとは自覚していても目の前に迫った演奏は何とかこなさなければなりません。
そこで私自身苦し紛れに考えたのは、極普通ですが、発想を転換させることです。普通、肉体と精神とはあまりにも密接に繋がり過ぎているものです。最近特に思うのは、前の章でも触れたように、あがっているということもすべて引っくるめてめて自分の個性の一部だと認めること。あがるということは演奏に対する責任感の強さが極端に身体に現れる個性そのものなのです。これは独自のキャラクターだと、あらゆる自分を素直に受け入れてしまうのが楽です。
具体的にどのように発想を転換すればいいのか?
まず高い所から自分を見下ろしているような気分になることです。精神と肉体とは別に存在するとでも言えるでしょうか。いつも自分を冷静に観察することです。
前の章でも少し触れましたが、自分が最高の聴衆になるということの大切さはそこなのですね。

また、あがってしまうと普段の実力が半分も出せない、と悩んでいる方も多いですか、こう考えるとどうでしょうか。
まず、あがってボロボロになった状態が本来の自分の実力なのだと。このように考えることができれば、とても楽ですよ!そこまで自分を受け入れることができればしめたものです。
当然のことですが、普段の鍛練は不可欠です。鍛練により自分の基本的なボロボロの程度を少しずつ改善していくのです