人はなぜ“あがる”のか?

明けましておめでとうございます!
今年も人々に潤いと癒しを与え続けられる音楽教室でありたいと思います。

新年最初の話題は音楽家にとっては悩みの種“あがり症”について私の考えることをお話し致します。

さて、人前で演奏したりスピーチしたりすると緊張して心拍数が上がり、手足が震え頭が真っ白、顔面蒼白になる。普段の実力の半分も出せない。これは極端な緊張による典型的な“あがった”状態です。基本的にこれは人間が本来持つ恐怖心からくる防衛本能に因るものだと思われます。または人類が地球に誕生して以来培ってきた根源的な恐怖感である、とも言えるでしょう。
あがることというのは、つまり恐怖心の変形したもののことです。誰にでもあります。心理学者のキューブラー・ロス博士がその著書でも説明していますが、人間の感じる恐怖感は心理学からみて《落下の恐怖》と《大きな音に対する恐怖》が最も大きい恐怖だといわれています。つまり根源的、本能的な恐怖、いやDNAに組み込まれた恐怖感そのものなのです。死の恐怖をも上回る直球的な恐怖なのです。私はいわゆる“あがり”という現象はこの落下の恐怖が形を変えたものだと思います。高い所から下を見ると脚がすくみ理屈抜きに怖い。あの感覚と同じ肉体的な反応です。ですから人があがるのは当然なのです。言いかえると、あがっている本人にとっては理由のわからない、とても質の悪い恐怖でもあるといえます。
もし人にこの恐怖心というものがなければ、どうなるでしょうか。人は死ぬことも恐れずどんな高い所からも飛び降り、怪我も恐れず。どんな危険なことも、殺人などの犯罪までもどんどんやってしまいます。世界の秩序が崩壊し人類は即滅びてしまうでしょう。というより人類の発展もなかったはずです。
種を保存するための大切な本能でもあるのです。
“あがり”や対人恐怖症など精神に関する問題は精神医学の分野でどんどん説き明かされていますので、詳しくはそちらの方を参考にして頂くのがいいと思いますが、今回は実際に演奏する演奏家の立場からこの“あがり”の問題を考えてみたいと思います。
まず白状させていただきますが、この私こそ酷いあがり症を抱えている張本人だということです。
これには昔からほんとに悩まされ続けました。
それでも何とか演奏家として続けてこられたのは、自分なりに工夫に工夫を重ね自分なりの対処方を編み出してきたためもありますが、まずその克服する努力を惜しまなかったことが最大の要因でしょう。
今回はその方法をいろいろご紹介させていただきます。
人前で演奏する時もまったく動じない、それどころか人前で弾くのが楽しくて仕方がないというような“変わった”(E・Tかも知れません!)人も稀にいます。そんな人から見れば何をそんな些細なことで無駄な時間をと一笑に付されそうです。でもこれは“あがり症”を抱える者にとっては出口のないじつに切実な問題なのです。

ささやかですが今回私は“あがり症”で苦しむ人達に何とか出口を照らす明かりになることができればと考え、私なりの方法を紹介させていただきたいと思います。
それでは本題にまいりましょう。