其ノ四

でもある時人類は、音程(音の周波数)を少し上げるだけでも気分がより高揚し感情を伝えやすくなることに気がつきました。また同じように下げると、高揚していた気分は鎮静化することに気がついたはずです。このようにして長い年月をかけて、人類は使える音の数を増やしていったのではないでしょうか。それに意思を伴う言葉のようなものを付けていったのでは?

とにかく音階、すなわち音楽の原点は精神の発露であったはずです。やがて二つか三つの音程に心臓の鼓動に合わせて、音の数々を繋げてていくと、より相手に自分の気持ちが伝わりやすく、楽しいことに気がつきました。興奮すれば自然と鼓動ははやくなり、気分が落ち着けば遅くなる。これこそ音楽表現の原点ですし、やがて人は心臓の延長として音楽に合わせて手拍子をとる。これは人類最初の楽器だと思います。今でも人は音楽を聴くと無意識に手拍子をとります。これは太古の楽器の名残だと思います。拍手にも見られるように、手を叩くということは、感情を表現したいという、人間の持つ根源的な欲求の表れなのです。
このような意味から音の変化は精神の発露であり、音楽の原点であることが理解できると思います。
しかし音の変化とは言っても、最初の頃はサイレンのような音の上下でしか無かったと思われます。音の階段として音を捉えるのには、もっともっと長い時間が必要でした。

やがて人は二つ三つの音では物足りなくなります。そして違う音を同時に歌うと気持ちがいいことに気がつきます。よく音楽学では洞窟での残響による自然倍音の発見が音階の発見に繋がったとか言われます。つまり洞窟の残響による自然倍音による完全五度の発見です。
洞窟などよく響く所で、“あー”と声を出します、耳を澄ますとまずオクターブ上の音、そして完全五度上の音が最も良く聞こえます。そして長三度が。これが自然倍音です。人類は洞窟で、その完全五度の心地好さに気がついたのだと思います。
人は三度をとるのはとても難しいのですが、完全五度(完全にハモる五度)は意外ととりやすく、合うと気持ちがいいものです。合わせると最もハモりやすいのが、この完全五度なのです。
オセアニアなど南の国の原住民が完全五度でハモりながら歌うのを聞くと、自然と音楽との強い結び付きを感じさせられます。
例えばドの完全五度上の音はソ。ソの完全五度上の音はレ。レの上はラ。ラの上はミ、というように、完全五度に完全五度を積み重ねていくとドレミファ…という音階が完成します。まさに自然現象と人間の感情との結び付きです。この音階の発見にいたるまでの、気の遠くなる年月を考えると、いま私達が楽しんでいる音楽の登場などは、つい最近の出来事なのです。
つづく