其ノ一
ポッパーのエチュード

私のレッスンではポッパーのOP.76‐1、“15の易しい旋律的和声的エチュード”を使うことがあります。ハーフポジション、第一から第四ポジション位まで拡張のポジションを含めて、無理なく弾ける生徒には十分ついていけます。
15曲、ほぼ第一ポジションを主体として書かれていますが、このエチュードは第一ポジションが主体とは言え、移弦が多くなる分、レガートやスタッカートで弾くのは、題名とは裏腹に大変難しいエチュードでもあります。
ではなぜ、そんな難しいエチュードをやるかというと、曲がとても良いからです。和声がとても洗練されていて洒落ています。メロディーも制限の多い第一ポジションの特徴を逆手にとって、とても美しく書かれています。練習していて飽きが来ません。また一曲一曲、際立った個性があり、一曲もそんなに長くはなくすっきりしているということ。これはエチュードには大切なことです。同じく初歩のエチュードとしてはドッツァウアーのエチュードが有名ですが、一曲がとても長く、曲数も多く、和声もありきたりでテクニックは養うことはできるかも知れませんが、私などには根気と根性を養うためのエチュードのようにしか思えないのです。脱落する人がとても多いエチュードでもあります。
そしてポッパーのエチュードは二重奏になっていること、これは重要な意味があります。先生と二重奏をすることによって知らず知らずのうちに響かせ方や音楽の感じ方が自然に身につきます。
オッフェンバッハやリーにも二重奏のエチュードはありますが、ポッパーのものは芸術面においてもずば抜けています。これは凄いことです。
どの曲も素晴らしいのですが10番、アレグロモデラート。私が大好きな曲ですが、この曲なんか一つの芸術作品で、コンサートで弾いても、ちっともおかしくない一曲です。
他に好きな曲は、5番、生き生きと。3拍子のとても愉快な曲。途中で2拍子になります。何という斬新なアイデア!

11番、アレグロ
モルトビバーチェ。6連符で動き回ります。
第12番、小さなメヌエット、とても優雅で品のあるメヌエット。
13、アレグロモデラート、レガートで動き回ります。左指3、4の弱さを痛感します。
第14番、スタッカートでアレグロ。1stポジションの極致!指がもつれます。

この曲集でポッパーは、第一ポジションの可能性を極限まで突き詰めました。
普段プロは、難しい曲ばかり弾いて、このような初歩のエチュードはあまり弾いたりしないものです。でもどんな難しい曲も第一ポジションがしっかり弾けなくては、弾けたことにはなりません。
このエチュードでテクニックのチェックをしてみるというのも意義のあることだと思います。普段サボっていると非常に難しく感じるはずです。
私も自宅で練習をする時は、このエチュードで始めることもあります。

オススメの楽譜としては、ベーレンライター社のルンメルの校訂によるもの。この版には、次の段階にあたる、“中くらいの難しさのエチュード”が収録されています。