其ノ三
◎続、書き込みの話

もしも楽譜に指番号(フィンガリング)など書けばどのようなことになるでしょうか?
指使いなど人によっても、またその日によっても違いますし、その時のタイミングによってもどんどん変化します。
もしもある音符に一つ番号を書いてしまえば、音楽の進行がいつもとは何かの都合で変わり、どうしても違う指で弾かざるを得なくなった時など、その指使いの数字の存在は邪魔以外の何物でもなくなります。
また、その数字通りでいつも弾けたとしても、違う指での表現の可能性を狭くしてしまい、即興的な楽しみを奪ってしまうことにもなるのです。演奏は日々その瞬間瞬間常に変化し続けなければなりません。それが他の芸術と最も異なる素晴らしい所でもあるからです。いつも同じ演奏など音楽にとっては大敵でしかありません。

オーケストラの場合、同じプルトの楽譜に指番号を書くという行為は他人に対する思いやりの欠如、迷惑以外の何物でもありません。それでも書きたいのなら徹底した協議の上お互い納得の上書かれるべきで、その番号は楽譜の使用後、後にその楽譜を使う人のため速やかに消されるべきです。

ある古くから続けるチェロ弾きに、オーケストラでは全員同じ指使いで弾くべきだと言った人がいましたが、そんな発想、どこから出てきたのかが不思議でしかたありません。
オーケストラでは各奏者、趣味も体型も違うのに、皆同じでという発想そのものが理解不能ナンセンスの極みです。某独裁国家のオーケストラならないともいえませんが…
昔のオーケストラの団員は自分達のことをよく一兵卒だと表現していました。隊長の命令は絶対だと。よほど個性が尊重されなかった時代の経験が身にしみてしまったのでしょう。皆と一緒でないといけないという発想はその頃の悲しい習慣ですかねぇ。
いろんな考えの人が集まっているのがオーケストラの良さというもの、それぞれの個性が尊重されて一つの演奏を作り上げられるべきです。傑作達は全てのものを受け入れるだけの寛容性や受容性があるからこそ、傑作たる所以なのですから。

ソロで弾く時もできるだけ指使いやボウインクなどの余分な書き込みはせず、音で覚えるようにしなければなりません。また問題となることがあれば、その前後の部分、いろいろな場合を想定して、いろいろと指使いやボウインクをシュミレーションしておけば良いだけの話です。
書きはじめると、全て書かなけれは気がすまなくなり不安になってきますよ!中毒のようなものです。

あッ!鉛筆の芯が折れてしまいました。

つづく