◎其ノ四
五感+α
色彩は音楽的な本能にも訴えてきます。
ある絵画を見て音楽が聞こえてきた。ある人の演奏を聞いて色が見えるようだ、などと漠然と感じた方は多いと思います。
チェロやオルガンを弾いた宮沢賢治や作曲家のスクリャービンはどの音にも色を感じたといいます。宮沢賢治の作品からは色だけでなく音も感じられます。これらの才能が突出している人を色聴者と言って、音楽家以外にも存在します。色聴者の感覚としては、例えばドの音は白、レは青、ミ♭はオレンジという風に。
この例は彼らだけの特徴ではなく、音楽家なら程度の差こそあれ、大抵持ち合わせているべき能力でもあると思うのです。
匂いと音との結び付きはあまり一般的には問題にはされませんが、本来匂いは色だけでなく音をも連想させるものです。
スクリャービンは音に対して色や加え匂いも感じていたようで、自作に匂いも結合させようとしました。
暗い土蔵や古城の少しかび臭さい匂いはチェロの最低音のド、太陽いっぱい浴びた布団の匂いはチェロの解放弦のA、もちろん色は白、など。こんな経験誰にでもあるのではないでしょうか。
“嗅聴”という言葉があっても良いかも知れませんね。
嗅覚と味覚は近い性質がありますから、さらに音に味を感じる“味聴”という現象も当然考えられると思います。普段忘れていますが普通に甘い音、辛い音、などと言うでしょう。
以上のように、突き詰めれば五感で感じられるものは全て音楽に通じることが分かると思います。音楽はただ音だけを扱っているだけではないのです。
音楽とはただ単に音だけの問題ではでなく、肌で感じないとだめだと思います。
さらに、“芸術”において聴覚以上に大切な要素は触覚です。全身に音楽を風のように浴びる(皮膚に音波を感じる)あの感触、合奏全員の音がが溶け合った時のあの感触、絹が手に触れるような感触、などちょっと思い浮かべるだけで誰にでもたくさん思い当たるところがあるでしょう。それでなくても、私達は普段何気なく“固い音”とか“柔らかい音”とか“ガサガサした音”などと言うでしょう?
ベートーベンなど耳は聞こえなくても、きっと音を肌で感じていたのだと思います。美術に当て嵌めると、さしずめ作品から肌に光子を感じるとでも言えるでしょうか。
五感だけでなく音楽にはさらに第六感も必要です。例えば不穏な気配や誰かいるような気配、“何となく”という感覚、例えば胸騒ぎとか予感を感じられたなら、きっと音楽の感じ方がもっと深くなることでしょう。六感全てが複雑に絡み合って表現されるものが音楽とも言えるのではないでしょうか。
それらの意味で私達音楽家は常に六感全てにおいて感覚を研ぎ澄まし、アンテナを張り続けていなければなりません。音楽は音であって音だけではないのです。
五感だけでなく第六感までに相通じる音楽芸術とは、その点において最高の芸術なのですから。
つまり音楽とは今を生きる、生きていることに他なりません。
続く
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