◎第五話
チェロの発音 2
試しに、チェロのG線を解放弦で長く弾き、それを録音します。
それを初めから聞けばチェロを弾く人なら誰でもそれがチェロの音だと判断できます。では次に録音の音の立ち上がりと終わりの切れ際の部分をカットして途中だけ聞かせると、大抵の人はもう何の楽器の音か、人の声か楽器の音かすら判断がつかなくなるという現象に陥るそうです。
それくらい音の立ち上がりと切れ際は大切なのです。つまり人は音の立ち上がりで音色を判断しているからです。また、音のニュアンスまでもそれから感じ取っています。
耳の遠い人は他人が話す言葉の子音を良く聞き取れていないから相手が話す言葉の意味が理解できない、という現象にもよく似ていると思います。
楽器でも子音の働きによって、聞く人の印象がいかに変化するかということが容易に理解できると思います。
これらの現象を軽視することはできません。
上手になりたいのならあらゆるニュアンスに対応できる音の立ち上がり、つまり子音の働きや音の分離の方法を研究するべきです。
チェロはバイオリンに比べ弦も太く長いため、それだけでも発音が鈍くなる原因となります。バイオリンのように弦に触れるだけでは良い音はでません。
ではどうすればよいか?
まず基本は弓の毛を弦にしっかりと着地させてから弾き始めることです。(ただし、弓が着地するのと動きだすのは同時です。時々弓を置いて一瞬待っている人がいますが、これは良くありません。)
はっきりした発音でフレーズを始めたい時は弦に弓を着地させると同時に左指で弦を叩きます。叩くことで発音を助けてやるのです。音が上に上がるのであれば左指も叩きます。音が下がれば指を上げると同時に弦を“はじき”ます。
その時、指の動きと弓の返弓の動きが完全に一致するように練習します。上手でない人は大抵左右の動きが一致せずズレているものです。このような人には一音ずつ弓を止めてでも左右一致させる訓練をさせます。
それがマスターできれば次は音色の作り方です。
例えばニュアンスがピアノでドルチェの場合だと音の立ち上がりが強過ぎては良くありません。その場合は弓の発音も子音を少なめに、そっと弦に置きます。左指も強く叩くのではなくそっと弦に置くように押さえます。
反面、フォルテの場合、特にスホルツァートなどアクセント記号ががあるような時はダウンでは出来るだけ弓元で子音をたっぷり加えます。左指もしっかり叩きます。
フレーズの途中のパッセージを弾くときもフォルテの場合しっかり左指を叩きはじきます。特に低音弦は口ごもったような音になりやすいため、叩きはじくことはとても大切です。ピアノの場合は左指も叩き過ぎずはじき過ぎず、歌うように。流れるように腕の重さを指から指へと移動させます。指が歌うことをマスターできればもう鬼に鉄棒です。
これらのテクニックが身につけば、あなたは明日からチェロの名人になれるでしょう。
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