1 ガブリエル フォーレの音楽

今年の梅雨は意外と早く明けそうですね。

その後にくるのは連日の猛暑です。
こう暑くてはなにもする気がおこりません。
そんな時はフランス音楽を聴くことをお勧めします。
このクソ暑い時期、フランス音楽は聞く者に一陣のそよ風をもたらしてくれます。
では、どんな曲を聞けばよいのか?
私ならまずフォーレの作品を第一にお勧めします。
管弦楽、室内楽、声楽、すべての作品において傑作ぞろいです。
その作品達の根底に流れるのは静かな祈り、静けさ、生真面目さ、典雅さ、上品さです。フォーレの作品にはどの曲にも必ず深い宗教性が感じられます。
これらはドゥビュッシーや弟子のラベルの作品からはあまり感じられない特徴です。何よりも彼等の作品から感じるのは、強い色彩感、ユーモアであったり運動性及びラテン民族特有の“熱さ”だからです。
ではフォーレの作品は色彩的ではないのか?それはドゥビュッシーやラベルの色彩感とは全く次元が異なるものと言えるでしょう。
彼における色彩感とはあくまでも“淡さ”を基調としたものです。
わかりやすく絵画でいえば、油彩画に対して点描技法で描かれた絵や水彩画、又はパステル画を連想させます。
そしてフォーレの作品には精神の安らぎ、または深い静寂が常に根底にはあります。静かな精神性を追求した結果、色彩感としては、とても淡く感じさせる結果となったのでしょう。夢の中の出来事のような淡い感覚とでも言えるかも知れません。

フォーレの作品が持つ独特な淡い色彩感を感じる作品として、気楽に楽しめるものとして私ならチェロソナタ第一番Op.109をお勧めします。聞くとその魅力からはけっして逃れることができない、なにか中毒性を感じる曲でもあります。

第一楽章はとてもリズミカルな曲で 独特のアクセントを持っています。しかし曲想はあくまで静寂感に包まれています。その姿からはなにか線香花火をイメージさせるものがあります。決して大輪の花火ではない、なにか“はかなさ”のようなものを感じます。
第二楽章は晩秋から冬にかけての情景。私にはこの楽章を聞いてそれしか感じられないのです。
ピアノのパートは淋しく寒い道を歩む姿。道は風で落ち葉が舞い上がります。
チェロは物思いに耽っている内面の声。
時々雪らしきものが舞い降りてきます。
この楽章を聞いてJ・Sバッハのガンバソナタ第一番の第二楽章を連想するのは私だけでしょうか?

第三楽章は憧れ。
春の日だまりのような心地好さがあります。 遠い春へ思いを馳せているかのようです。時によっては過去の楽しかった日々を懐かしんでいるようにも聞こえます。雰囲気は懐かしさと暖かさに一貫され、曲はやがて救われた魂が昇天していくように、淡い光に包まれながら曲を閉じます。
録音を聞くならポール・トルトゥリエのチェロ、ジャン・ユボーのピアノのものがお勧めです。
学生の頃、私は憑かれたようにこのレコードばかりを聴いていた時期がありました。