其ノ十

20世紀に入ってもチェロだけでなく弦楽器の音はガットの音でした。私がオーケストラに就職したころ、バイオリンの年配の先輩達から戦時中に弦を手に入れるのに苦労した話や一度使ったガット弦を上下逆にして使った話をよく聞かされたものです。 僅か七十数年前の話なのに隔世の感じがしますね。それだけガット弦を使うことは最近まで普通の事だったのです。今、裸のガット弦を使っているいるといえば、古楽器奏者でないかぎり変人扱いされかねません。
何故現代人の感心はガットからスチール弦に移っていったのでしょうか。それはスチールの音の大きさ、使い易さ、その寿命の長さ(スチールの本当に良い音がする期間はガットに比べてそんなには長くはないのですが)からくる値段の安さ、切れにくさ、のみでしょう。音楽がショービジネス化し、肝心な音の繊細なニュアンスなど二の次となってしまったというのが最大の原因です。
大きな音や見せかけの刺激のみ求める社会にも問題アリと見ています。
ある高名なチェロの先生が“楽器は音色で選ぶな、音のでかさで選べ!”と言っておられたのが印象的です。正に時代を表した名言“迷言”?ですね!
音色と音量とは相容れないものなので、そこまで言い切ったその先生はある意味、潔いと思います。