◎ 歌う左手 2
ギターは金属のフレットを介して音が出ますが、バイオリンやチェロは直接指の肉から音が出るとも表現できます。つまり左指は言葉のニュアンスを司る舌や唇の働きも担っているのです。その原理を考えてもバイオリン族の楽器の音がいかに人間臭いかがわかるでしょう。
また、それに気がつくだけでも弦の押さえ方に工夫がなされるため、音色は格段に改善されるでしょう。
ギターやガンバのフレットはチェロに当て嵌めて考えれば、上駒の位置を動かしていることに過ぎません。つまり極端に言えば左手は弦長を変え音程を取る役割しか無く解放弦の連続だとも言えるのです。したがって音色(単音で)は透明度が高く、単純素朴。その音の特性上、和音での表現が得意です。
考え方によってはギターやガンバなどフレットを持つ楽器は色々なニュアンスを出すには、とても難しい楽器だとも言えるでしょう。特にメロディーだけで聞かせるのは至難の技です。
ワンストロークにすべての表現が委ねられるのですから。音の立ち上がりの一瞬で音色に対する印象は決まってしまうのです。
バイオリン族の楽器のように発音に遊びがありません。
またそのことが、これら和声的表現を得意とする溌弦楽器の良さであり特徴でもあるのです。もしもギターにフレットがなければどんなことになるでしょうか。音が不明瞭、残響も無く寝ぼけたような音になってしまうでしょう。指ではじく意味がありません。
私達チェロ奏者はフレットがあればどんなに音程を取るのが楽だろうか、とよく考えたりしますが、実際には不便さを克服してでもフレット無しで弾くだけの価値がバイオリンやチェロにはあったのです。
続く
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