◎ これはリヒァルト・シュトラウスが残した最後のオペラの名前です。あまり聞かない名前ですね。
R・シュトラウスといえば『薔薇の騎士』や『エレクトラ』に代表されるように絢爛豪華な舞台と大編成のオーケストラによるグランドオペラを連想させますが、このオペラは迫力で迫る場面など全くなく、常に静かで室内楽的要素がとても色濃い作品です。一見地味といえばそうかも知れません。
実際一般的なオペラのような迫力を期待して聞くと少々がっかりします。
ほぼ全曲に渡ってアンサンブルの面白さが中心となります。会話が主体となっているオペラだからです。
従って、一般的なオペラのように超絶技巧を見せ付けるようなアリアは出てきません。
その分、歌手は細かい表情や演技の巧みさを最大限要求される作品でもあります。決して棒読みのような歌い方では演奏にならないでしょう。演奏や演出がとても難しい作品でもあります。

対話劇、題名を見ても『カプリッチョ』、実に曖昧な題名です。つまり気まぐれに、とか気が向くままになどという意味で、登場人物が各自持論を主張しあうという実に気ままなオペラです。

ストーリーは、文化人の紳士淑女が芸術に関する議論を徹底的に交わすというもの。その内容とは音楽が先か詩が先か?というなんとも漠然としたというか悠長な議論に終始一貫しますが、最後は“結局みんな大事なんだよね!”とめでたく終わるというなんとも不思議なストーリー。
初演されたのは1942年、第二次大戦真っ只中のドイツ。そんな物騒な時代にこんな悠長な曲をよく演奏したものですね。それを受け入れることができるというのはさすが音楽大国ドイチュラント!
 
この作品はその長さに反して幕はたった一幕でできています。場面は第13場まであります。
第13場で場面はがらっと変わり、オーケストラによる『月光の音楽』に突入しますが、この音楽の何と美しいこと!シュトラウス節の炸裂、甘美の一言。一聴の価値はあります。この曲の直後からは主役の一人マドレーヌによるソプラノのソロが約25分間幕切れまで続きます。それにしてもこの長大なソロを一人で歌いきるのは肉体的精神的に大変なことでしょうね!

この作品によってシュトラウスが到達したものはなんでしょうか。ドラマチックなストーリーによって得られる大袈裟な表現ではなく、純粋にキャラクターの面白さを会話として描き分けること。そこに楽器による室内楽に共通する対話の面白さを発見したのではないでしょうか。純粋に言葉の響きや人の声に面白さを感じたのだと思います。きっと彼は楽しみながら作曲したことでしょう。
歌によるアンサンブルの面白さを堪能するには絶対お勧めする一曲です。

終わり