生徒A君は現在小学四年生、チェロを始めてからもう三年ほどになります。もうすでに小さな曲は何曲もマスターし、この4月からヴィヴァルディの「ラ・フォリア」(原曲はトリオソナタ)に挑戦しております。
彼の場合、すでに第4ポジションまで自由に使いこなせるまで上達したので、今回彼にとっては少々難しいこの曲を与えることにしました。
今まではポジションを安定させること、ボウイングを安定させること、根本的な音色の美しさを重視するために、あえてヴィブラートをかけることは要求しませんでした。ヴィブラートはそれらの未熟さを誤魔化す手段となりかねませんからね。
しかし、ラ・フォリアともなりますと芸術性から来る色々な音色の要求から、どうしてもヴィブラート無しでは物足りなくなってしまいます。したがってこの曲からヴィブラートの導入に踏み切ったのです。
私独特のヴィブラート練習法により(簡潔ながら以前にその方法は紹介済みです)、なんとかわずかながらもヴィブラートがかけられるようになりました。
 
ヴィブラートは「かけたい」「かけよう」という音楽的要求や意志の力が何よりも大切です。ただ何となく常にだらだらと無意識、条件反射的にかかるのなら、ヴィブラートはかけないほうがましです(残念ながらそんな人はほんとに沢山います)。この場合、かけないという努力が必要となってきます。
実は、無意識にいつでもヴィブラートがかかっている、というのが音楽的には最も厄介なのです。
 
ラ・フォリアのテーマでは第2拍目にリズムの重心がありますので、どうしても第2拍目にヴィブラートをかけたいという要求が生まれるのです。その点、この曲のテーマは「適切な」ヴィブラートをかけるための良い教材になるのです。
「かけたい」という要求や必要がある時のみヴィブラートはかけるものです。生徒A君には、残念ながらまだその要求は芽生えていないようですが、ヴィブラートが必要な場所を指示し説明しながらかけさせていく、そしてその要求を芽生えさせていく、という作業が大切だと思います。
 
A君は今現在、意識しすぎて肩から先がどうしても力んでしまっていますが、ヴィブラートの振幅を極控えめにかけさせること(これによって力みはかなり軽減されます)、これにより音色の美しさを阻害することなくヴィブラートによって、メロディーを活かすことができることを少しずつではありますが理解してくれているようです。
今後を期待しております。KIMG0752