◎ 毎日の練習 5

チェロをプロとして弾くようになってから、毎日のように弾いてきたのは、今も昔もやはり大バッハの無伴奏チェロ組曲でした。

楽譜として最初に手にしたのはフーゴー・ベッカーのスラーだらけのロマン主義的解釈による版でした。それ以降、手に入る楽譜はほとんど買い求め、今では手元にバッハだけでも20種類以上はあるかと思います。林峰男先生の所でレッスンを受けた時はポール・バズレール版でした。この版もスラーが多く、バッハの時代にはない色々なニュアンスが書き込まれています。この版の基本的なコンセプトとして、バッハの音楽を多声的に捉えるのではなく(バッハの音楽は単声であっても複数のパートが同時に合奏しているように書かれています。)このバッハの大作をあくまでも流れる美しいメロディーとして聞かせること。この版はとても良いと思います。

どの楽譜を使うかはとても重要な問題です。私は思いますが、あまりにもオリジナルの再現にばかりにこだわり過ぎるのはいかがなものでしょうか。昨今、古楽ブームと言われるようになり久しいですが、再現することばかりにエネルギーを使い過ぎているのではないでしょうか。その結果、出来上がったのは、血の通わない無機質な演奏、あるいは反対に伝統を無視した自分本意の演奏ばかりが目立ちます。自分の気持ちと伝統とは絶妙なバランスがとられなければなりません。
楽譜でも再現だけに労力を費やした楽譜は多く見受けられます。
もちろん当時の演奏法は尊重されるべきで、それを研究するためにそれらの楽譜は役にはたちますが、それだけにこだわり過ぎるのは良くありません。あくまでもそれは血の通う音楽的な表現のための手段であるべきです。また常に新しくなければならないと思います。作曲された時、その曲が最新の曲であったように。
一見、無謀なやり方だと思われても色々な方法を試してみるべきだと思います。それぐらいでバッハの偉大さは損なわれるものではありません。バッハの懐深さです。私は色々なバッハの楽譜から良い所だけ意見を頂いて、自分の解釈を元に自分のオリジナルの楽譜を作っています。
また、その楽譜は日々進化し続けているのです。

続く